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令和5年度 卒業式 式辞

春は名のみの風の冷たさ。春めいて来たと思うとまた寒さがぶりかえしてきました。まさに冴え返るという言葉がぴったりの春の寒さです。三年生の皆さん、卒業おめでとう。本校の教職員を代表して、心から祝福の意を表します。3年前、みなさんと私とは時を同じくして北野高校に来ました。振り返るとコロナウイルス感染症が猛威を振るった年月でした。みなさんが第1学年の冬休みには休みであるにもかかわらず、全員に登校を促し、PCR検査も受けてもらいました。3年生の共通テストが近づく中、難しいかじ取りの連続でした。正解はなく、その場その場で判断を迫られました。しかし、みなさんはいつも明るく学校を信頼し、ついてきてくれました。それはこの3年間、変わることのない姿でした。わたしにとってはみなさんの元気な姿を見ることが心の支えでした。みなさんには単に生徒という思いだけではなく、苦難をともに乗り越えてきた同士として今までの卒業生とは違う特別な感情をもっています。そんなみなさんが今日、本校を巣立っていきます。昨年行った創立150周年記念式典のあいさつの中で、古代哲学者アリストテレスのニコマコス倫理学の話をしました。人間の究極の目的は幸福の実現にあると言う話です。すべての人間は生まれながらにしてさまざまな可能性をもっている。それが花開いたときの充実こそが幸福だ。そしてそれを開花させるためには必要な力が4つある。現状を判断する「賢慮」、困難に立ち向かう「勇気」、欲望をコントロールする「節制」。他者を重んじる「正義」。この4つの力があれば幸福実現につながる。このような話でした。実はこの話には続きがあるのです。わたしは今日の皆さんの卒業式でその話をしたかったので半年間、とっておきました。人間はひとりで生きていくことはできません。必ず、何らかの形で人とつながっています。ではどのような人とどのようにつながっていけばいいのでしょう。アリストテレスは人とのつながりを友愛という言葉で説明します。友愛には3種類あると言います。ひとつは、有用性に基づいた友愛、たとえば、試験の前にノートを貸してくれる自分にとって役に立つ人、もうひとつは快楽に基づいた友愛、自分にとって快いものを与えてくれる人、2つの友愛は「自分にとって」という自己中心的なものです。相手に有用性や快楽を感じなくなると友愛の情も消えてしまいます。ですから、そこには安定性や持続性がありません。最後のひとつは人柄の良さに基づいた友愛です。これをアリストテレスは真の友愛と呼んでいます。人柄は簡単には変わらないから持続的であり、安定性があります。では人柄の良さとは具体的にはどのようなものでしょうか。それが先ほどの「賢慮」「勇気」「節制」「正義」に基づく人格です。この4つの力の育成は習慣の積み重ねであり、継続的、持続的に自らの行動を戒めていかねばなりません。4つの力を育んだ人間であれば、自然と同じ価値観に基づいた人が集まってきます。皆さんには他者と人柄のよさに基づく友愛を育んでもらいたいのです。ただし、人柄に基づいた友愛が形成されるには長い時間がかかります。まずは自分自身を磨かねばならないし、また4つの力を兼ね備えている人が社会には少ないからです。誰でも青年期は人格が未完成です。長い年月、正しい習慣の継続によって人格が完成されます。しかし、そのことに気が付いている人は案外少ないのです。でも北野はその人柄に基づく友愛を育める心の種をもつ人材の宝庫です。前後左右の人を見てください。みなさんの隣の人はその素養がある人ばかりです。人との出会いのはじめは有用性でも快楽からでもいいのです。今話したように最初から人柄に基づいた友愛は難しい。北野で出会ったすぐ隣の人と長い年月をかけて、人柄に基づく真の友愛を育んでください。人間として充実したあり方をしており、そのことに喜びを抱きつつ日々生活を送っている、そういう人同士が親しい関係を結べば、相手への信頼関係の中で心が開かれ、おのずと楽しい時間を過ごすことができます。そうした人たちは困ったことがあれば、助けてくれます。このように人柄に基づいた友愛を実現している人たちは結局、快楽も有用性もその内部に含んでいるのです。北野で出会った友をどうか大切にしてください。必ずや、一生の友となることでしょう。

最後に保護者の皆様方、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。子育てを振り返ってみると、お子様が病気になったときの看病、元気がない時の心配、ご苦労の連続であったと思います。嬉しい時も悲しい時もいつも、お子様とともに時間を過ごしてこられました。本日は皆様方にとっても子育てからの一応の卒業です。長い間本当にお疲れ様でした。目の前の三年生の姿は皆様のご努力の賜物です。こんなに心豊かな人間になりました。みなさまの子育てはまさに百点満点です。

さて、卒業生の皆さん、いよいよ旅立ちの時です。皆さんの未来は皆さん自身が創ります。みなさんが友愛に満ちた友をもち、充実した幸せな人生を送ることを心から願っています。私は今まで皆さんに四字熟語を機会あるごとに送ってきました。最後に送る四字熟語はやはりあれです。苦難の後には青空が広がっています。

  雲外蒼天

令和六年三月一日       
   大阪立北野高等学校 校長 天野 誠