150周年 記念式典
菊の花薫る今日の佳き日、大阪府教育委員会橋本教育長様をはじめ、多数の御来賓の御臨席を賜り、かくも盛大な式典をあげられますことは誠に本校の栄誉とするところであります。ここに教職員を代表してご臨席の皆様に対し、厚く御礼申し上げます。
さて本校は明治6年難波御堂の地に欧学校として誕生し、150年の歳月を過ごしてまいりました。卒業生は4万人をゆうに超え、国内はもとより国際社会でも活躍する人材を輩出してまいりました。150年の間には日清戦争、日露戦争、第二次世界大戦など幾多の混乱の時期もありました。しかし社会がどのように変化しようとも変わることなく卒業生に、そして現在の生徒諸君の心に受け継がれているものがあります。それが六稜魂です。六稜魂の解釈には百人百様の解釈があり、現在の学校案内などでは「やるべきことをやり抜く忍耐力」「何事にもチャレンジする精神力や決断力」などと書いています。しかし私はこの言葉には古代からの哲学に通ずるもっと深淵な意味があると考えています。
古代の哲学者アリストテレスは「ニコマコス倫理学」の中で人間の究極的な目的は幸福の実現にあると言いました。すべての人間は生まれながらにしてさまざまな可能性をもっている。それが花開いたときの充実こそが幸福だ。そしてそれを開花させるためには必要な力が4つある。それは賢慮、勇気、節制、正義である。「賢慮」とは判断力。自分が直面しているのはどういう状況なのか、その都度判断する力、次に「勇気」。勇気とは困難に立ち向かう力、そして「節制」。節制は欲望をコントロールする力、最後に「正義」。正義とは自分のことだけではなく、他者や共同体のことを重んじることのできる力。この4つの力があれば幸福実現につながる。このようなことをアリストテレスは言いました。しかし、これらの力は一朝一夕に身につくものではありません。みなさんは国語や数学の力をつけるときには数多くの問題を継続して解きます。それと同じことです。この4つの力をつけるために北野高校は毎日、課題を課しています。ある時はひたすら縄を跳び、ある時はひたすらプールで泳ぎ、ある時はひたすら淀川河川敷を走る。各教科の先生方が出す様々な課題をクリアーしながら、3年間で賢慮、勇気、節制、正義という幸福に必要な力を身にまとっていくのです。人間の性格や人柄は日々の行動の積み重ねによって形成されます。現在のみなさんの姿は決して、運命や偶然の結果ではありません。みなさんが生まれてから今までおこなってきた長い時間にわたる行動の表れなのです。みなさんは意識の有無にかかわらず、現在の姿を選び取ってきたのです。今後も北野が出す課題を一つ一つ、クリアーしながら幸福になる源である4つの力を確かなものにしてください。
さて、生徒のみなさんは今まさに北野に150年間、通奏低音として流れ続けている六稜魂を受け継ぎつつありますが、この六稜魂をまさに体現しておられるのが、野村会長をはじめとする同窓会のみなさまです。創立150周年行事にかかる様々なご苦労をそばで見ていて本当に頭が下がる思いでした。六稜倶楽部建設等の寄付金が思うように集まらない時でも先ほどの賢慮、勇気、節制、正義の力を駆使して乗り切っていただけました。まさに北野の同窓会の驚嘆すべき底力を見ました。どうぞ同窓会のみなさま、今後とも後輩たちのご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします。
さて最後にいまいちど現役生に語り掛けて挨拶の結びにしようと思います。今後、みなさんには艱難辛苦が待ち受けています。しかし大丈夫です。みなさんには150年の伝統ある六稜魂があります。みなさんを応援する同窓生や教職員がいます。そして何よりも同じ時間、同じ空間で勉学に励んだ友がいます。苦難の後には必ず、幸福の青空が広がっています。そのことを願って、最後にいつものように今日の話のテーマとなる四字熟語を送って私の挨拶とします。
「雲外蒼天」。
本日は誠にありがとうございました。