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令和4年度 卒業式 学校長式辞

三年生の皆さん、卒業おめでとう。本校の教職員を代表して、心から祝福の意を表します。本来なら三月は木の芽時と言って木も草も一斉に芽を出し、春の開幕を告げる華やかな季節ですが、コロナウイルス感染症の影響の上に、ロシアのウクライナへの軍事侵攻も加わり、世界を閉塞感が覆っています。そのような難しい社会情勢の中を皆さんは北野高校から巣立っていきます。果たしてどのような未来が待ち受けているのでしょうか。平成に入って30年間、日本は経済成長が実感できず、失われた10年はおろか失われた30年という声が聞かれ始めています。30年間も経済成長がとどこおると、もはや不況というよりもこれが現在の日本の実力かなと思ったりもします。現に世界時価総額ランキングは平成元年には世界のトップ企業20社の中に日本の企業が14社も含まれていましたが、今は1社もありません。その間に、アメリカのシリコンバレーでは次々と新興企業が生まれています。世界中からとがった個性をもつ高学歴の人たちが集まり、ダイバーシティあふれる環境で喧々囂々侃々諤々と議論を交わし、新しいアイディアが生まれてくるのです。みなさんには大学に進学してシリコンバレーのような世界で活躍し、もう一度、日本を輝かせてほしいと願っています。予測困難な時代においても、大学は真理の探究をめざす場であり、それ自体が価値を有する空間です。大学の学術研究によって創り出される多様な知の蓄積が常に社会の発展の礎となってきました。これからの100年、そして未来にわたって人類が持続的な発展を遂げていくためには、いかなる状況変化や新しい課題に直面しても、多様な知を基盤として柔軟かつ的確に対応していくことが必要です。その際、大切なことはデータに基づいて事実を把握し、よりよい解決法を論理的に見出すことです。北野高校の三年間、すなわち授業、学校行事、部活動などあらゆる教育活動で皆さんは立ち止まって思考する訓練を重ねてきました。思考する種は十分皆さんの心に蒔かれています。シリコンバレーのような世界にデビューし、皆さんの力で日本をいや世界をリードしていってほしいのです。若々しいみなさんの英気を世界は一層、必要としています。勇気をもって自分が選択した道を進んでください。そして国際社会へと羽ばたいてください。

さて、本校は今年、創立150周年を迎える記念の年です。記念誌の執筆にあたって、いろいろと過去の資料を見ていましたが、至る所に「六稜魂」という言葉が出てきます。しかし、その定義めいたものはなく、意味するところは判然とはしません。皆さんなら「六稜魂」をどのように定義づけしますか?おそらく創立以来、150年の長きにわたって本校の校風を基底し、通奏低音をなしているものこそが「六稜魂」であろうと推察しています。私なりに解釈すればそれは「自己を大切にしながらも、他人を慮り、やるべきことはどんな艱難辛苦があろうとも乗り越え、やりぬく。」ということではなかろうかと思っています。そしてその育成を可能にする条件がアカデミックで自由闊達な校風ということなのでしょう。今後も北野はその校風のもと、六稜魂の育成に努めます。創立150年の伝統を持つ日本一の学校として国際社会の真のリーダーたるにふさわしい人材を育成していきます。どうぞ、皆さんはその先陣を切っていってください。

最後に保護者の皆様方、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。お子様が病気になったときの看病、元気がない時の心配、その気遣いたるや、さぞ大変なことであったと思います。嬉しい時も悲しい時もいつも、ともに時間を過ごしてこられました。本日は皆様方にとっても子育てからの一応の卒業です。長い間本当にお疲れ様でした。目の前の三年生の姿は皆様のご努力の賜物です。こんなに立派な人間になりました。みなさまの子育てはまさに百点満点です。

さて、卒業生の皆さん、いよいよ旅立ちの時です。皆さんの未来は皆さん自身が創ります。充実した幸せな人生を送って下さい。私は今まで皆さんに四字熟語を機会あるごとに送ってきました。最後はさらに一段、ステージをのぼり、新たな景色を眺めてほしいという願いを込めて、王之渙の五言絶句「鸛鵲楼に登る」を送って送別の辞とします。
白 日 依 山 尽  黄 河 入 海 流
欲 窮 千 里 目  更 上 一 層 樓

令和五年三月一日
        大阪立北野高等学校 校長 天野 誠