卒業、おめでとう!

今日は卒業式でした。

私自身は高校の卒業式を入試のために出席できず(しかも大学落ちる)、高校の卒業式を経験していません。

ところが、人生とは不思議なもので、高校の教員になってから毎年卒業式を経験し、今年は特別な場所から卒業生の皆さんを送り出せることができました。

夜桜では卒業生ひとりひとりに、准校長が直接卒業証書を渡すことができます。校長職にとってはたいへん嬉しいことです。壇上で卒業生と目を合わせる時、緊張で顔がこわばっている卒業生もいれば、にっこりとほほ笑む卒業生もいます。このそれぞれの表情は准校長しか見られない特別な瞬間です。

卒業式では卒業生の皆さんに以下の式辞を贈りました。

 4年生25名、3年生1名、合わせて26名の皆さん、卒業おめでとうございます。夜桜の教職員を代表して、心から祝福の意を表します。

 皆さんの夜桜での高校生活の大半は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一斉臨時休校をはじめ、様々な面で多くの制約を受けました。私を含め、大人たちは活動に制限を受けた高校生を見て、「かわいそう」と声をかけていたかと思います。しかし、高校生の皆さんからすると、かわいそうとは言われても、コロナ前とは比べようもなく、ただ同情の目を向けられることに違和感を覚えていたかもしれません。どのような制限があっても、今を一生懸命に生きることが大切ですし、今を一生懸命に生きるしかありません。これはコロナに限った話ではなく、これからそれぞれが歩む道でも同じことです。

 卒業生の皆さんに贈るメッセージとして、お話をひとつ、言葉をひとつご紹介します。

 まずはお話です。人間は知らず知らず、自分で自分の限界を決めてしまうことがあります。かつて1マイル走、約1,600mを走る競技では、前人未到の「4分の壁」というものが存在していました。4分以内で1マイルを走れる人間はいないのではと思われていたところに、1954年、いまから70年前にイギリスのロジャー・バニスター選手が人類初めて4分の壁を破り、3分59秒で1マイルを走り切りました。「諦めずに挑戦することは素晴らしい」と皆さんに伝えたいのではありません。ここからが大切です。このバニスター選手が4分の壁を破ったあと、3年間で15人もの選手が4分の壁を破りました。トップアスリートですら、「4分の壁」を意識して自分の限界を決めてしまっていたのかもしれません。そこに4分の壁を破った選手がひとり現れたとたんに、「自分にもできるかも」と意識が変化したのでしょう。このような世界記録に限らず、日常生活の些細なことでも「どうせ無理だろう」と挑戦する前から諦めてしまうことがあります。ぜひ、意識して「でも」「だって」「どうせ」のネガティブワードを言いそうになっても飲み込んで、大きなことでも、小さなことでも、挑戦を重ねてください。

 何かに挑戦したり、将来の夢や、やってみたいことを話して、「そんな出来もしないことを」と言われた経験は誰にでもあると思います。しかし、冷静になって考えてみると、出来もしないことの反対は「出来ること」。将来の夢に、今出来ることを言う人はいません。出来るなら今この瞬間から始めればいい。と、なるとやはり、将来の夢や、実現したいことは今の段階では「出来もしないこと」「出来ないこと」です。「出来もしないこと」をどうやって実現するのかを考え、行動できる人になってください。

 続いて言葉を紹介します。日常会話で当たり前のように使われている、「ディスる」という言葉の語源を知っていますか? 否定や反対の意味を持つ接頭語「dis」からきており、好きのlikeにdisが付くとdislike、嫌いという意味になります。disは否定の意味と言うとネガティブな印象を持ちますが、皆さんにはdisのついた「discover」という言葉を贈ります。覆い隠す意味のcover、そのcoverをdisるとdiscover、「発見」という意味になります。世の中、知らないこと、分からないことがたくさんあります。分からないことのほうがはるかに多いはずです。分からないことが分かった時の喜びはこの夜桜で経験できたはずです。ぜひ身の回りの様々なことに興味を持ち、知らないこと、分からないことを学んでいく中で様々なcoverをdisって、discover・発見してください。

 さて今日、卒業の日を迎えるまでには、卒業生の皆さんそれぞれに様々な出来事があったと思います。今思い出しても笑ってしまうこと、反対に思い出すだけで胸が苦しくなることもあるでしょう。皆さんそれぞれが様々なことを経験し、苦しいことも乗り越えて今、この場にいます。

 私たち教職員にとって、生徒の皆さんから「夜桜に来て良かった」と言ってもらえることはこの上ない喜びではありますが、卒業生の皆さんの中には、まだ夜桜に来て良かったのか、分からないという人もいるかもしれません。夜桜を選んだことが良かったのかどうかは、これからのあなたの行動次第です。いまは新たな生活に向けて、新たなスタートラインに立とうとする瞬間です。視線は後ろではなく、しっかりと前を向いているはずです。新たな生活を始めて、少し余裕が出てきたところでふと後ろを振り返った時に、「夜桜で良かったな」と思えるように、春の輝く光に包まれながら、新しい一歩を進めてください。

 結びになりますが、本日、お忙しい中、御参列いただきましたご来賓はじめ、皆さまのご健勝とご多幸を願いますとともに、本校へのより一層のご支援、ご鞭撻を賜りますことをお願い申しあげ、私の式辞といたします。

 改めて、卒業おめでとう!

令和6年3月1日
大阪府立桜塚高等学校 定時制の課程 准校長 今西 良介