2019/7/25◆府立人研第2日目全体会/阿波木偶箱まわし
人形浄瑠璃が盛んな徳島県において、一人遣いの人形芝居で、人形を箱に入れて担ぎ、家々や人の多く集まる大道などで演じられたもの。演目は大きく分けて2種類ある。年明けに家々を廻って門付けをし、その年の家内安全や商売繁盛を祈る「三番叟まわし」と、「傾城阿波の鳴門」などの人気演目を大道で演じる「箱廻し」である。
本日の講師の面々は、徳島県の生活文化や習俗を掘り起こす作業を重ねてきた芝原生活文化研究所は、1995年に阿波木偶箱廻しを復活する会を立ち上げ、「五穀豊穣」、「無病息災」、「家内安全」などを願う「三番叟まわし」など国内だけでなく海外での公演もこなしている有名な方々であった。
箱まわし」とは箱をまわすのではなく、人形をまわす(舞わす)のである。徳島の「阿波木偶(でこ)箱まわし保存会」は、劇場でおこなうのではなく、江戸時代の文献や屏風で見られるように、正月に「門付け(かどづけ)」をして歩くのである。門付けとは、一軒一軒の家を回ってその家の一年の安寧を祈願することだ。これを予祝(よでゅく)という。三番叟(さんばそう)人形による予祝は「三番叟まわし」と呼ばれる。門付け先は増加して現在、千軒を超えているという。ところが、求められていたのに芸人はいなくなったのだという。その理由は、三番叟まわしが、被差別部落において伝承されてきた伝統文化だったからである。差別を経験してきた人々は、自らその芸能から離れ、あるいは自分の子供や家族にその芸能を継承させなかった。
辻本一英さんの書かれたものに『阿波のでこまわし』(解放出版社)という本がある。そのなかで辻本さんは「経済至上主義や学歴社会を腹いっぱい飲み込んでいた私は、ムラの生活文化のいっさいにマイナスのレッテルを貼ってしまいました。部落に生まれて「恥ずかしい・つらい」とひきずっていた私を、「部落文化」の豊かさが救ってくれました」と書いている、高校教師として同和問題の啓発活動までしていた辻本さんは、長いあいだ、部落で継承されていた三番叟まわしやえびすまわしの価値を知らなかったという。「阿波木偶(でこ)箱まわし保存会」を創設したのは、この辻本さんである。今回は、この辻本さんが講演者であった。実演者は、「三番叟まわし」と「箱まわし」を継承している保存会の二人の女性、中内正子さんと南公代さんであった。
辻本さんは言う。「部落差別は、すべての人びとに不利益をもたらします」と。三味線、太鼓、藍染め、皮革、にかわ、茶筅、はきものなどのものづくり。祈りや願いを託すことで心を保つことのできる、さまざまな予祝の芸能。それらが、求められながら減少し、あるいは消滅してきた。差別によって文化がまるごと消えてしまうのです、と・・・・。
辻本さんは、部落の文化であることをはっきりと公言しておられた。隠さない。誇りに思う。継承する。そうすることで辻本さん自身が差別を乗り越え、また次の代にその誇りを伝えているのであろう。我々は、差別と排除によって、大事なものを失う。それがよく分かったご講演であった。
ちなみに、「箱まわし」とは箱をまわすのではなく、人形をまわす(舞わす)という意味である。人形は、文楽人形を思い浮かべればよいがおおきめ (1.5-2倍くらい)で、かなり高価なものであるらしい。人形は厄を引き受け、神に祈りを届け自然のちからを人に移し、祈りによって福を届けるものである。被差別部落において伝承されてきた、豊かで素晴らしい伝統文化であった。興味のある方は下記のホームページなどで、さらなる素晴らしい情報を得てほしい。
阿波木偶箱まわし関連のホームページ
サントリー地域文化賞/消滅の危機にあった貴重な伝統芸能を継承、調査・研究と普及活動を展開
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_cca/detail/2017_03.html
https://kouenplus.com/profile/awadeko_hakomawashi/
阿波木偶箱まわし保存会 三番叟お福さんhttps://www.youtube.com/watch?v=6XM07FU42LY
差別を超えて文化を取り戻す https://www.hosei.ac.jp/gaiyo/socho/diary/2017/170529.html