研 究 紀 要 第53集 1.巻頭言               校 長 太田淳一郎 ・・・  1 2.重複障がい児童におけるICTの活用について ~ICT機器の利用の必要性~ 小学部 綿谷 彰人 ・・・  3 3.卒業後を考えて自立する力をつけるための授業のあり方 ~A課程外国語(英語)の授業での取り組み~ 中学部 村本佳恵子 ・・・ 10                       4.卒業後を考えて自立する力をつけるための個々に適した授業の在り方   ~準ずる課程 社会科での実践~   中学部 林 幹夫  ・・・ 13 5.「中学部 B課程生徒のADL(道具)の取り組みについて」 中学部 羽地 円  ・・・ 17   6.中学部C課程 一日に見通しを持ち、楽しく学校生活をスタートする   「朝の会」の取り組みについて    中学部 中口 真  ・・・ 29    7.視覚障がい教育における   中学部・高等部普通科合同学習の取組と課題 高等部普通科 浅間 耕一 ・・・ 34 8.「高等部普通科 進路の取り組み」高等部普通科 梅本 愛喜 ・・・ 40 9.教科・理療における科目間の関わり・つながりを踏まえた、   具体的な指導内容や授業の工夫等について  高等部理療科 ・・・ 49 10.綴り、語ることで継承される生活教育   寄宿舎 原田奈穂美 ・・・ 79 11.編集後記                    研究部 ・・・ 85 2026年1月 大阪府立大阪北視覚支援学校 巻 頭 言 「紀要」発行に当たりご挨拶申しあげます。  本校では、2年に一度「紀要」を発行し、各学部における教育活動を記録として残しています。本校では在籍数が55人と少ないですが、幼稚部、小学部、中学部、高等部普通科、高等部専攻科の5つの学部・学科と寄宿舎があり、幅広い教育活動を行っています。  今年度の学校経営計画では、中期的目標にあるいくつかの項目について、その指標を「紀要への掲載」としました。これは、本校の教育活動の目標指標が「何回行った」などの数値では表しにくく、むしろ教育活動の中で何の目的でどういった内容のことをしたか、それが幼児・児童・生徒にどのような影響を与え、そして、幼児・児童・生徒、保護者の評価がどうであったかが重要だと考えるからです。  今回の「紀要」では特に、1人1台端末などのICT活用や授業改善、学部間の連携、一貫したキャリア教育を柱に学校経営計画の中期目標の項目に沿ったものを中心に掲載しました。ICT機器の利用では、児童生徒の見え方によって活用のしにくさがあり、各教員がどのように活用しているかアンケートを取り、各教員の取組みを共有するとともに音声を使った一例を紹介しています。授業改善においては、中学部での自立活動の取組みのほか、卒業後の自立に向けたキャリア形成に対する取組みを掲載しています。学部連携では、中学部と高等部普通科の重複学級における運動やリズムの合同授業について、その成果と課題を示しています。専攻科では、令和5年度より新たな教育課程をスタートさせ、指導内容や生徒が覚えやすくするための授業の工夫を行い、各班の取組みについて紹介しています。寄宿舎では、生活教育という視点で2年間の実践報告を掲載しています。  本校では、幼小学部連携や中高の一貫した教育など、幼稚部から高等部普通科、あるいは専攻科まで一貫した教育が行える強みを生かして、令和5年度よりキャリアプランニング・マトリックスをベースにした個の成長、発達に応じたキャリア教育を行っています。少ない在籍数を縦の繋がりでカバーすることで幼児・児童・生徒の集団性を育んでいます。その例として、幼小学部での合同授業では、幼稚部の幼児が小学部児童へあこがれ、また、小学部児童はお兄さん、お姉さんとしての自覚が芽生えてきています。中高重複学級の合同授業では、生徒相互の幅広い繋がりができ、一人ひとりにそれぞれ良い影響がみられています。クラブ活動では、盲スポーツを通して、中学部から専攻科、視覚以外の障がいを併せ有する生徒も一緒に一つの目標に向かって絆を深めています。寄宿舎でも専攻科の舎生が中学部、普通科の舎生とともに寄宿舎生活を楽しんでいます。また、学部間連携を活発にすることで、幼稚部から小学部、中学部から高等部普通科への進学がスムーズにできているように感じます。  終わりに、この「紀要」が、本校の教育活動における歩みを振り返るだけでなく、未来への指針を示すものとなることを願っています。これからも幼児・児童・生徒の可能性を引き出し、成長を支える教育をめざして努力してまいります。今後とも、本校の教育活動へのご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。 令和8年1月 校長 太田 淳一郎 重複障がい児童におけるICTの活用について ~ICT機器の利用の必要性~ 小学部  綿谷 彰人 1.はじめに  近年、視覚支援教育においてもICTが教育活動の中で用いられるようになってきている。本校も多くのICT機器を保有しており、幼児・児童・生徒の実態に合わせて教員が創意工夫をして取り組んでいる。  しかし、ICTの活用を学習活動に取り入れているケースは教科や発達年齢などでばらつきがある。特に重複障がい児童に対してICT活用の実践事例があまり多くない状況にある。どのようにICT機器を利用しているのかアンケート調査を行い、GIGAスクール構想で配付されている1人1台端末(iPad)の利用を幅広く推し進めると共に、系統的かつ継続的なICTの活用を目標に考えることにした。 ~校内ICT利用アンケート調査より抜粋~ Q.具体的にどのようにICT機器等を活用しているかについて教えてください。 〇幼小学部? ・タブレットに保存した音楽を保育で流した。 ・子どもたちの声の録音や編集を行った。? ・タブレットを利用して絵本やイラストを拡大して見せた。 ・七夕劇の際に動物の声や物の効果音を流した。(効果音アプリKlang) ・文化祭でセリフをタブレットで録音して使用する。 ・国語、理科、家庭科、生活、外国語、社会の調べ学習でタブレットを使用。 ・社会の授業で教科書の図を拡大のために電子黒板とタブレットを使用。? ・社会の授業で動画視聴のため電子黒板とタブレットを使用。(NHK for School)? ・タブレットで理科の実験動画を視聴した。 ・タブレットを利用して植物の観察をした。 ・タブレットのアプリで学習をした。(ひらがな、かずを数える) ・数の学習でアプリを利用して順番や数字の穴あけ問題などを行った。 ・タブレットを利用して算数の教科書のQRコードから立体問題の動きについて確認した。  ・電卓機能を使った。 ・朝の会でコミュニケーションアプリ(DropTap)を使用した。? ・特別活動でゴールボールの試合を動画配信で見た。? ・Google Mapの利用。 ・福井盲学校とのオンライン交流のため電子黒板とタブレットを使用。(Zoomを使用)? ・他校及び関係機関との連携にアプリを使って会議に参加した。?? ・長さ3分の曲を編集して1分にした。(ガレージバンド)? ・部会で画像資料を電子黒板に映して共有を図った。 〇中学部 ・特別活動や総合の学習でWebから音を拾って流したり、録画したものを再生したりした。? ・Zoomでのオンライン授業。? ・作業技術:便利アプリの操作練習、Seeing AI?を利用した。 ・メールの送受信など。? ・国語の季語の調べ学習、社会、美術の調べ学習。? ・映像制作でタブレットのカメラとコマドリアプリを使用した。? ・造形の学習で音楽を流すのにタブレット・スピーカーを利用した。? ・文化祭で生徒の動作に合わせて音源を流す。生徒の作った映像を流す。? ・音楽の授業で動画アプリを使用し、英語の曲を聴き歌詞を聴き取った。(グループワーク)? ・英語で単語調べ、二次元コードの読み取り。? ・自立活動で自分が行きたい場所のルートを調べた。 ・自立活動で音楽を流すためにタブレット端末を使用した。?? ・緊急対応などでの記録。? 〇高等部 ・電子黒板にプリントの内容を示す。教科書を拡大して写し、図の説明をする。 ・プレゼンテーションの実習に使う。? ・タブレットに教科書デジタルデータを入れて活用する。 ・病欠の生徒とオンラインでつないだ。 ・オンライン授業の練習(メールの送受信、Zoomの使用)。 ・プレゼンテーションの作成、メモを取る、キーボード入力の練習、インターネット検索等。 ・地歴や英語など調べ学習、映像資料提示に利用。? ・来校支援でレンズ指導の後、タブレット端末で撮影をして確認した。? ・カメラで活動の記録をとる。? ・タブレットのアクセシビリティの機能の指導をする。? ・研修会や出前授業においてPCとプロジェクターを使用し情報を提示する。? ・タブレットとプロジェクターを使用しタブレットの使い方を示す。? ・会議アプリを使用し会議に参加。電子黒板と接続し全国大会の抽選会に生徒と参加した。? ・大型モニタにリズムの学習で歌うときに歌詞を提示した。 ・理科で教材の動画を視聴した。?  ? <アンケートの考察>  教科の学習や自立活動、学校行事など様々な場面でICTを活用している。特にタブレット端末は欠かせないツールになっている。最近ではZoomを活用したリモート学習やオンライン交流を行う機会が増えてきている。幼小学部では、教員が主体になって授業や保育の中でインターネットを利用したり、動画で記録したりする場面が多い。中学部や高等部普通科では、生徒が自らICTを利用するケースも多く、視覚障がいに特化した『PC-Talker』『Seeing AI』のようなアプリやツールなどの利用について学習することも増えてきている。   2.実践について  アンケートの結果から本校において重複障がいのクラスの授業でのICTの利用頻度はあまり高くないことが分かる。ほとんどの学習活動で教員が主にICT機器等を操作して授業等を進めている。そこで、子どもたちが積極的かつ主体的にICTを活用して興味関心をもって取り組めるような授業を行うことにした。また、この実践は大阪府教育センターと協働して研究を進め、成果と課題についても考察を行った。 (1)授業研究について 単元名『世界のあいさつ』(道徳科)  他国について知識を深めるというより、いろいろな国について触れる機会やあいさつなどの言葉を話す経験を増やすことをねらいにした。学校生活の中では楽しい言葉があると、歌にしている児童や、何度も言葉にする児童が多いので、中国やインドネシアやイタリアなどのあいさつは、初めて聞くような語感を楽しんで言葉にする姿が期待された。本授業は、道徳学習指導要領の『C主として集団や社会との関わりに関すること』に合わせて[国際理解 国際親善]・他国の人々や文化に親しむこと・他国の人々や文化に親しみ、関心を持つことの内容として取り組んだ。 (2)児童の様子  本学級は小学部3・4・5・6年生の5名(男子3名、女子2名)の児童が在籍している。弱視児童や全盲児童がおり、視覚障がいの状態や見え方も一人ひとり異なるため、授業や活動を行う際に座る場所や教材の提示の仕方や物の触り方など様々な配慮が必要である。また、視覚障がい以外に知的障がいや肢体不自由など他の障がいを併せ有している。  児童のICTへの関わりの状況は、どの児童の家庭でもYouTubeを利用しており、興味に合わせて動画から音楽等を聴いている。画面操作してアプリを選択したり、写真や動画を閲覧したりすることができる児童もいるが、ほとんどの児童は実際にタブレット端末など自分自身で操作することはあまりない。また、外国語については、朝の会のカレンダーワークで『月』『曜日』を英語にして自ら楽しんで表しており、知っている英語をコミュニケーションの中で使おうとしている。また家族の影響から海外について興味をもっている児童もおり、外国語で数を言うことができたり、興味のあることなら簡単な文を言うことができたりする。 (3)授業実践の概要  重複障がい児童クラスの道徳の学習では、児童一人ひとりが理解できるように、ロールプレイや音声等で丁寧に様子を伝えて進めている。休み時間に遊んでいる音の鳴る絵本やおもちゃは、海外の挨拶や言葉が流れるものもあり、ボタン操作に慣れてくると自分だけで繰り返し楽しんでいる。世界の国について知ることを学習のねらいとするのではなく、いろいろな国の音楽を聴いたり、食べ物を紹介したり、また、あいさつを使ってみたりして、他国について興味をもつきっかけになるような活動にするように進めた。  本実践では、タブレット端末に入っているコミュニケーションアプリ『DropTap』を使用した。このアプリは発語や言葉による意思表示が難しい人を対象に開発されている。基本的にはイラストのシンボルをタップすることで自分の意思や選択を相手に伝えることができるアプリであるが、音声を出すことができるので、児童がタップする位置が分かるように配慮すれば、重複障がい児童が音声を模倣して言葉の表出につながった。  重複クラスの児童は、手指の動きが未発達なため画面をタップすることに難しさがあり、少し手が画面に触れるだけで、何度かタップしてしまったり、逆に指の腹が上手く画面に当たらずにタップできなかったりすることがある。ほとんどのアプリでは、何度か触ってしまうと画面が切り替わったり、他の動作や音が流れてしまったりする。『DropTap』では、間違って画面に軽く触れてしまっても、画面が急に変わったり、音や動作が始まったりすることがあまりないので児童が使いやすいと考えられる。また一度にボードに表示されるテーブル数・種類についても自由に変更することができる。本学級の児童は1つのボードに3つのテーブルが適切だと考えて、児童がタップする画面を構成した。 ※DropTapの画面 (4)学習過程 全2時間 第1時 学習内容 ・知っている国について発表し合う。 ・知っている他国の音楽について発表し合う。 ・知っている他国の食べ物について発表し合う。 第2時 学習内容 ・他国のあいさつをタブレット操作して聞く。 ・タブレットから流れたあいさつを真似して言う。 ・あいさつの歌を歌う。 (5)タブレット端末(iPad)を操作した第2時間目の授業の流れ 時間 学習内容・学習活動 指導上の留意点及び   支援の手だて等 導入 ○机に集合して、椅子に座ってあいさつをする。 ○本時の学習内容について説明する。 ○前時の復習をする。  前回の活動で学習した国の名前を伝える。 ・授業の始まりを意識できるように姿勢を正す声かけをする。 ・世界の音楽や食べ物を一緒に思い出して発表する。 展開 ○iPadを使って、世界のあいさつを聞く。 〇それぞれの国のあいさつを言う。 「ありがとう」「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」「さようなら」 ・タップしにくい場合は、TTの教員が指を一緒に動かして支援をする。またiPadタッチャーを使ったり、カバーを利用したりする。 ・1人ずつあいさつを言う。その後、全員で言う機会を設ける。言葉が出にくい児童には、教員が一緒に言う。 ・上手にできている児童や積極的に取り組もうとしている児童は、みんなの前で発表するようにする。 まとめ ○気に入ったあいさつを発表する。  自分が選んだあいさつを音楽に合わせて歌う。 ○終わりの挨拶をする。 ・あいさつが言いにくい際は、TTの教員と一緒に言うようにする。 ※授業の様子   3.実践の成果と課題  初めは、タブレット端末を操作することが難しいのではないかと考えていたが、何度か練習すると画面の「真ん中」、「左」、「右」などの教員の指示を聞いて、楽しんでタップ等の操作をすることができていた。また、タブレット端末から流れる他国のあいさつを聞いて、興味をもって真似して声に出してみようとする姿が見られた。  しかし、タブレット端末の操作にかける時間が多くなってしまっていたので、他国のあいさつを友だち同士で言ってみるような活動の幅を拡げる内容を入れることなどICTを使った活動とICTを使用しない活動をうまく融合していくことが大切であると感じた。実際に物に触れたり、直接的なやり取りをしたりすることを大切にすることが求められる。ただ、ICTの活用を目的とするのではなく、学習のねらいに沿った適切なICT活用を考えていくことが必要である。重複障がい児童の学習場面においてもICTの活用は児童の興味・関心を引き出し、非常に効果的なツールであるが、児童の実態をより詳細に把握した上での活用がより大切であることを確認することができた。 卒業後を考えて自立する力をつけるための授業のあり方 ―A課程外国語(英語)の授業での取り組み―                中学部  村本 佳恵子 1.はじめに  卒業後を見据えた自立する力とは、自分で考えて行動することだと考える。何かを考えるには、材料つまり知識が必要だが、中学生の知識はそれほど多くはない。また自分の興味のあることについてはかなりの情報を得ているが、興味のないことにはほとんど関心を向けることの無い生徒が少なくない。これまでは、ニュースや情報番組を見れば関心のないことも取り上げられていて耳にすることもあったが、最近はテレビや新聞から情報を得ない生徒や家庭が増え、雑多なニュース・できごと、なおさら関心のないことを耳にする機会が減っている。普段の生活の中で様々な情報をインプットしない・できない大きな要因だと思う。  そのため、外国語(英語)の授業の中での取り組みとして、教科書の文法事項を学ぶだけではなく、取り上げられている内容を深めるとよいのではないかと考えている。英語の教科書本文のテーマは学校生活、日常生活、言語、文化、芸能、風俗、習慣、スポーツ、政治、国際、災害、生物、宇宙など多岐に渡っており、それらについてどの程度知っているか、どう思うか、今後どうすればよいと思うかなどと生徒が考えるきっかけになるテーマがたくさん散見できるからである。   2.生徒の実態と教科書  対象生徒は、一般中学校と同じ教科書を使用しての「準ずる課程」の授業を受けており、外国語(英語)を週に4時間履修している。  対象生徒人数と使用教科書は以下の通りである。 対象生徒人数 令和5年度 3年 2人(墨字1人、点字1人) 令和6年度 1年 1人(墨字1人) 使用教科書 東京書籍 NEW HORIZON English Course 3(3年) 東京書籍 NEW HORIZON English Course 1(1年)  視覚支援学校用に点訳された教科書を使用しており、大阪府内の各市町村等採択のものとは異なる場合がある。ちなみに大阪府下で同じ教科書を採択しているのは以下の通りである。大阪府下61郡市区のうち18地域で採用され、採用数2番目の多さであった。  大阪市(此花区、港区、西淀川区、淀川区、東淀川区、天王寺区、生野区、阿倍野区、東住吉区、平野区)  吹田市、交野市、羽曳野市、大阪狭山市、南河内郡、高石市、阪南市   3.取り組み内容 実際に行った授業の各パートの単元テーマを以下に記す。    令和5年度 3年  UNIT 0 世界の言語  UNIT 1 パラリンピック、車いすテニス、スポーツ用車いす  UNIT 2 英語俳句、日本文化  UNIT 3 絶滅危惧動物  LET’S READ 1 被爆した楠の物語、オバマ元アメリカ大統領の演説  UNIT 4 外国人のための災害時の避難  UNIT 5 ガンジーの非暴力運動をはじめとした伝記  Stage Activity 2 英語での日本文化についての説明  UNIT 6 SDGs,日本のランドセルのリサイクル運動    令和6年度 1年  UNIT 1 オーストラリアのスポーツ  UNIT 2 お寿司、地図記号、朝食  UNIT 3 クラブ活動  UNIT 4 時差、ニュージーランドの学校での習慣や動物・スポーツ  UNIT 5 夏祭りと盆踊り  UNIT 6 フィリピンでの生活  UNIT 7 日本で活躍する外国人  UNIT 8 サプライズパーティー  UNIT 9 国際協力  UNIT 10 英国での年越しと日本でのお正月  UNIT 11 1年の振り返り    いろいろな話題について授業中にインターネットで調べ学習をすることもあったが、それをきっかけに自らニュースを見るようになったり気になることを調べたりしているようで、「天気予報を毎日チェックするようになった」と話してくれた生徒もいた。  まずは自分の身の回りのことや日本の習慣、文化、自然、スポーツなどを意識するようになり、気づくこともあったようだ。知らないことを知る楽しさ、興味関心、もっと奥深く知りたいと思う好奇心、それらを生徒自身が感じられるようになって行動してくれればと願っている。 4.まとめ  自立するとは自分の頭で考え自ら判断して行動できることではないだろうか。その力をつけるには考えるベースとなる様々な知識が必要である。また想像したり推測したりするにも基礎となるものがないとできない。テレビや新聞に触れる機会が少ない昨今の生徒たちには、学校の授業の中で知る知識が自分の意見や希望を発信する土台となる。まずは基本となる知識・情報を得て、また自分でそれらを手に入れる方法を知って自ら知り、さらに卒業後も自分を高めて自立できるようになってもらいたいと期待している。そのためにも教科書の単元テーマについて自分自身も情報を仕入れ、生徒たちに提示していきたい。 卒業後を考えて自立する力をつけるための 個々に適した授業の在り方 ―準ずる課程 社会科での実践― 中学部  林 幹夫 1.はじめに  卒業後を考えて自立する力をつけるための授業の在り方について、準ずる課程に在籍する生徒を対象とした授業について振り返ってみる。  令和5年度、準ずる課程の3年生の生徒2人に対して公民の授業を行った。  公民の授業では、もちろん知識を増やし、それを説明できるようにすることが重要な目標の一つである。  卒業後を考えて自立する力をつけるためには、  ・自分の意見をまとめて発表する力をつける ・相手の意見と対立するようなことになったとしても、それを理解した上で自分の意見を相手にわかるように伝える ということが重要となる。 2.生徒の実態と教科書  対象の生徒は、準ずる課程に在籍していて、墨字を使用する1名、点字を使用する1名である。  使用教科書は「中学社会 歴史 未来をひらく」(教育出版)と「中学社会公民 ともに生きる」(教育出版)である。 3.取り組みの内容  公民の教科書には、話し合いについて書かれた部分(p27 話し合いの方法を考えること)がある。  そこで、公民の学習の中でも、それまでに学習してきたものをもとにして、それぞれの意見をまとめて発表し、意見を交わすという機会を3回設定した。   そのテーマは (1)自衛隊はあったほうがいいのかどうか。            (公民教科書p72 「憲法に定められた平和主義」) (2)死刑制度はあったほうがいいのかどうか。 (公民教科書p107 「公民の窓 冤罪と再審」) (3)社会科の授業時間をつぶしてふれあい動物園に参加すべきかどうか。(身近におこった問題) (1)と(2)については、教科書や憲法の条文を読んだ後、それぞれの意見をその理由とともに発表することができた。 (1)に関しては、自衛隊はどう見ても軍隊であり、戦力であるといえることから違憲と判断し、あることはおかしいというところまでは一致した。しかし、災害復興での自衛隊の活動などを考えると災害復興の役割を担う部門が必要ではないか、しかし災害はいつでも起こっているものではないので、どういう形で雇用するのか、具体的な案は出なかった。「戦力」としての自衛隊を話の中心に置いて議論をした。  Aさんは憲法を改正して自衛隊を憲法に沿ったものにすべきであるという主張をおこなった。  Bさんは自衛隊の組織を民間のものとして組織を作り直せばいいのではないかという意見を述べた。  しかし、それでも結局憲法とのかねあいで、憲法の改正は必要であるとの意見は一致した。憲法のどこをどのように改正すればよいのかというところまでは、時間の関係もあり、深い議論ができなかった。 (2)について、Aさん、Bさんともに殺人罪については死刑制度がある方がよいという意見だった。その理由は、Aさんは、人を殺しておいて、犯行を行った人が生きているのはおかしいし、被害者にとっては許されないことであるというものだった。Bさんは、死刑があるから人を殺すと死刑になるという事で、殺人に対する抑止力が働くという意見を出した。  二人とも死刑制度に賛成であったが、冤罪の話を聞くと、賛成という意見が少しトーンダウンした感じになった。  絶対にその人が犯人だということが明らかな場合は死刑もやむを得ないのではないかという意見が出されたが、その意見に対して、絶対にその人が犯人だということが明らかにならない場合はどうなるのか、執行されてから、判決が覆るような新しい証拠が出てきたらどうするのかという意見も出され、死刑制度に賛成という最初の意見からは二人とも反対の方に動いてきた。  死刑制度があるから犯罪の抑止力になっているかについては、人口千人当たりの刑法犯の認知件数の推移などの資料から、抑止力になっているという解釈と、死刑があるから減ったという解釈、どちらが説得力があるのか、どちらの解釈が適当と言えるのかなど、簡単には結論が出せなくなるくらい、考えは大きく揺り動かされていた。  最終的には、やむをえないかなあということに落ち着いたのだが、もしも冤罪だったらということが頭に残っているようで、賛成、反対どちらかに落ち着かせるのが難しかった。  以上述べたように(1)と(2)に関しては、指導者が資料を提供したものや、教科書で生徒がすでに持っている資料を基に話が進められた。 (3)については、教科書に載っている問題とは全く関係のないものである。3学期のふれあい動物園(学校の運動場に移動動物園が来て、動物を触ることができる)に行くかどうかという問題について、自分の意見をまとめて発表させた。二人とも行きたいのだが、3学期ということもあり、授業時間をつぶしてでも行くのかどうかということが争点となった。移動動物園にできるだけ参加したいということでは一致している二人が、どのように授業担当者に訴えて長く参加できるようにするか、あるいはあきらめて授業を受けるかという、本当に身近な自分に直接関わるいわば大問題である。  このテーマについて、A さんは、50分授業のうちの20分だけ参加するのはどうか。Bさんは、授業時間が足りなくなるので、本当は参加したいのだが我慢してあきらめ、授業を受けた方がいいのではないかという思いであった。二人で意見を出し合っている中で、Aさんから、授業が本当に遅れているのかどうか、遅れているのならどれくらい遅れているのかということを授業担当者に聞いてみればいいのではないかという意見が出された。Bさんはその意見を受けて、遅れているのならそれが挽回できる程度なのかどうかも聞きたいという意見を出した。  実際、公民の授業にとって、50分の授業が抜けるのはかなり厳しい状態であった。大体いつごろまでにこのページまで終わっていないといけないという説明をして、その時までの授業の進み具合予想を示した。  二人でそれらの資料を基にして議論をし、二人は授業が遅れているという「事実」について知り、それと自分たちがふれあい動物園に参加したいという「思い」(しかし我慢しなければならないのではという考え)を確認した。最終的に二人の出した結論は、休み時間からふれあい動物園の会場に行って、最初の20分だけ参加する、20分経ったらすぐに教室に戻ってきて授業を始める、それ以降も欠席や遅刻で社会の授業に参加できないことがないように努力するというものだった。  ここで二人が学んだのは、ふれあい動物園に行きたいという「思い」を実現するために、どれだけ授業が遅れているのかという「事実」を知るということと、「参加したい」という「思い」をかなえるために、「事実」を調べて(授業担当者に尋ねて)結論にもって行けたことだ。  何らかの自分の思いを通すには(提案するには)、その「思い」だけではなく、それを支える理屈となる「事実」を探すことが大切であるということを知ったのではないだろうか。  自衛隊や死刑制度など教科書に載っている、いうならば自分から少し遠い問題ではなく、移動動物園への参加という本当に身近な問題から、話し合い、相手を説得するまとめ方などについて学ぶことができたと思う。 「中学部 B課程生徒の         ADL(道具)の取り組みについて」 中学部  羽地 円 1.はじめに  平成30年度より中学部はカリキュラム改訂を行い、B課程(知的代替の課程)において、従来の教科中心のカリキュラムから自立活動の時間を大幅に増やした。  平成31年度からの自立活動の取組み内容は、全てが個別ごとではなく、授業ごとにまとまったカテゴリーの内容を行うのはどうかと、試行錯誤しながら取組み内容の体系化を進めていった。  今年度(令和6年度)の自立活動の取組み内容は、作業【週2時間(以下2Hと表記する)】、ADL身体【2H】、ADL衣類【1H】、ADL道具【1H】、認知・歩行・点字【1H】の5つ【計7H】である。  (ADLという名称は、日常生活動作(ADL : activities of daily living)によるものである。)  今回の研究紀要では、これらの自立活動の取組みの中から令和5年度、令和6年度の「ADL(道具)」の内容の紹介と、その取組みを経て生徒たちがどのように変化してきたかについて一部紹介していきたい。(令和6年度の取り組みより) 2.生徒の実態  B課程には、令和5年度は男子5名、女子2名、令和6年度は男子3名、女子1名が在籍しており、視覚障がいと知的障がいとの重複障がいの生徒も含まれている。弱視、全盲など、生徒たちの実態は様々である。令和6年度は、C課程の男子生徒1名(全盲、知的障がい)もこの自立活動に一緒に取り組んだ。  生徒たちの見え方や、生活経験による差が大きく、道具についても名前を初めて聞いた、聞いたことはあるが実物は知らない、また、名前は知っていても使い方を知らないなどのケースが多くあった。それらの道具の使い方や、仕組みなどを丁寧に説明し、使い方を一緒に確認しながら指導することの必要性が担当教員間で認識された。 3. 取り組み内容  令和5年度の「ADL(作業)」で行っていた、生徒による出席確認、身だしなみ確認を授業の始めに行ってから、今日の作業内容の説明をし、授業を始めるスタイルを継続して行った。  ADL(道具)の授業は4時限に設定されており、後半の約20分間は生徒の実態や課題別に個別に分かれて必要な自立活動を行っている。また、C課程の生徒は給食準備に取り組むことになっているため、実質の取り組み時間は約30分間となっている。 (1)令和5年度 ①軍手の装着、ひとつにまとめる ②箸を持つ、動かす ③スナップボタンの留めはずし ④ファスナーの開け閉め ⑤固結び ⑥蝶々結び ⑦紐通し ⑧靴ひもくくり ⑨ペットボトルへの水注ぎ ⑩水が入ったコップをお盆で運ぶ ⑪穴あけパンチで穴を開ける ⑫南京錠の開閉 ⑬防災ヘルメットの組み立てと収納 ⑭防災ヘルメットの装着と紐の長さの調節 ⑮バラバラのトランプをまとめる ⑯トランプをきる ⑰ビニール袋を畳んでくくる ⑱ビニール袋の口を固結びす ⑲固結びされた袋を開ける ⑳輪ゴムでまとめてくくる ?雑巾絞り ?鉛筆の線を消しゴムできれいに消す(弱視生徒) ?机上のごみを集めて捨てる ?髪を束ねて結ぶ ?弁当箱を広げる、片づける、ゴムで弁当箱を留める ?コップからペットボトルに水を移す ?ビニール袋を三角形にたたむ  など (2)令和6年度 出欠確認、身だしなみ確認 ① 牛乳パックたたみ ②ブロックの分類 ③傘(雨傘、日傘)の開閉 ④バスタオルたたみ ⑤粉末飲料の開封、コップへ入れる、水を注ぐ、混ぜる ⑥ビーズのキーホルダー制作 ⑦点字用紙の製本 ⑧ホッチキスの留め、外し ⑨ペットボトル開閉とからコップ、ゆのみへの水注入 ⑩お盆にコップ、ペットボトルを乗せて運ぶ ⑪硬貨の分類 ⑫ゼムクリップで封筒の封をする ⑬ドレッシングなどの小袋を開けて、入れ物に注ぐ など、幅広い内容に取り組んだ。 このうち、みだしなみ確認、①⑤⑦⑧⑫⑬について紹介する。 〇出欠確認、身だしなみ確認  毎回、1人ずつ順番で当番になり、出欠確認と身だしなみ確認を行っている。 1.出席の点呼が終わると、「出席〇人、欠席〇人です」と報告をする。 2.身だしなみ確認 ・肌着などがズボンやスカートのウエストから出ていないか ・爪は伸びていないか ・爪にゴミは入っていないか ・前髪は目や顔にかかっていないか ・髪は跳ねていないか ・ひげは伸びていないか ・顔が汚れていないか の7項目について行う  自分自身で、整えられているかわからない項目については、「〇〇の確認をお願いします」と、教員に確認してもらう。  将来、仕事に就いた時に、商品を扱ったり、接客する場面で身だしなみが整えられていないと社会人として恥ずかしいということ、相手を不快な気持ちにさせてしまうこと、自分が逆の立場であったらどう感じるかなどを、具体例を上げて分かりやすく説明している。相手の表情や場の状況や雰囲気を感じ取るのが難しい、弱視や全盲の生徒に身だしなみの大切さを毎回、伝えている。  2年目の今年度は、意識づけできるようになってきた生徒もいるが、まだ、清潔にするという意識の低い生徒もいるため、普段から意識できるように言葉かけなどを続けている。 ① 牛乳パックたたみ  本校の給食で提供される牛乳が紙パックであり、回収業者に出して廃棄するため、ゴミの量が少ないほうが処理代費用が安くなる。そのため、生徒たちにもこのことを説明し、費用削減のためにも、平らにたたんで空きのパックにできるだけたくさん詰めるように指導をしている。 1. パックの脇を内側に折りたたむ 2. 底の厚い部分をどちらか一方に折りたたむ 3. 力を加えて全体を平らにする 4. 空のパックの中に、端から詰めて入れる 5. できるだけたくさん入るように、底を上側にして入れる(入れ方を統一する) という順番で行う。  良い見本と悪い見本を触らせて、パックの端や角が大幅にずれてたたまれていないか、力を加えてしっかりと平らにたたんでいるか、などを確認するよう促す。  手指の操作に課題のある生徒や、指先に力が入りにくい生徒は、パックの脇を内側に均等に折りたたむのが難しく、この部分がずれていると、綺麗にたたむことができず、ずれた形でたたまれるので、収納するときに上手く入らなかったり、たくさん詰めることができなくなったりする。平らにするために、両手で挟んで力を加えたり、机の上に置き、その上から手のひらで圧をかけて押してみたり、生徒たちは様々な工夫をして、平らにしようとする様子が見られる。  4月、取り組み始めはなかなか綺麗にたたむことができなかった生徒も、回数を重ねるごとに上達してきた。しかし、授業では時間をかけて集中してたたむことができるようになっても、給食時には、自分の牛乳パックをたたむ際には、時間に追われ適当にたたんでいたり、集中せずにたたんだりすることも多くあった。そのため、給食時はパックをたたんだものを「これでいいですか?」と教員にたずねて確認してもらうようにルールを作った。上手くたためている時は、「100点!」などと褒めるととても嬉しそうな表情になり、達成感を持っている様子であった。このように、日々、繰り返し行うことができれば、難しかった作業もだんだんと慣れてきて上達するので、繰り返し行うことが大切だと感じる。  C課程の生徒は、指先の巧緻性や力の入れ方などが難しく、1人では脇を折りたたむこともできないため、牛乳パックの口部分を対角線上に指でつまみ、引っ張り、口を四角の状態に開けることから繰り返し練習し、指でつまむ、力を入れたまま左右に引っ張るなどの動作練習をしているところである。 【資料1 牛乳パックたたみ】    脇部分をたたむ。  力を入れて、平らにする。    底も、平らに折りたたむ。  空き箱に、詰めて入れていく ⑤⑬ 粉末飲料の開封、コップへ入れる、ドレッシングなどの小袋を開けて、入れ物に注ぐ  最近は、コーヒー、緑茶などもスティック状の小袋に粉末で入っていたり、給食で提供されるドレッシングやジャムなども小袋に入っていたりするものが多い。生徒たちから「ドレッシング、開けてください」「どこに切り口がありますか?」と給食時に支援を求められることも多々あり、開け方や注ぎ方を身に着けておく必要があると感じ、この作業を行うことにした。 1. 全盲の生徒は、小袋を触って、切り口がどこにあるかを確認したり、弱視の生徒は、近くで見て切り口に色や線が付いていないかを確認したりして、切り口がどこにあるかを調べる 2. どの向きで持てば、開けやすいかを考える 3. 容器の内側に入るように小袋を持つ位置を考える 4. ゆっくりと中身が飛び散らないように切り口を開ける 5. 容器に入れる(中身を出すために、指先で上部から挟んで下方に向けて)    同じメーカーであっても、商品によって切り口の印(色、線の太さなど)が違うものや、小袋の素材によって同じ長さの切り込みがあっても、触って切り口を感じにくいものもある。また、最近は、切り口ではなくミシン目のような点線に沿って弧を描いたようにカーブしながら開けるタイプなどもあり、種類が多く、体験してみないと開け方が分からないものもたくさんある。  全盲の生徒は、液体の場合は触って分かるので、飛び散らないように慎重に開け、切り口を最後まで切り取る際に力が入りすぎると、中身が飛び散ったという経験から、最後まで切り取らないで中身を出すという工夫をしていた。このように、失敗したり、しそうになったりという経験は、教員や周りの人からの指導や助言よりも本人が一番記憶に残っていて、今度は気を付けようという意識づけになるのだと感じた。この方法を他の生徒に伝えると「なるほど」と納得し、意識してみようという気持ちになっていた。周りの友だちからたくさんの影響を受けることができるグループワークの魅力であると感じた。 【資料2 ドレッシングの小袋】 切り口部分を上部にして、切り口を切っていく。 器の内側に入れることができるように、位置を確認して、袋からドレッシングなどを押し出していく。 ⑦⑧点字用紙の製本、ホッチキスの留め、外し  依頼された文化祭の校内児童・生徒向け点字プログラムの製本作業に向け、紙ちぎり、順番に重ねる、ホッチキス留めなどの練習を行った。 1.点字プリンターで印刷された用紙に折り目を強くつけ、端を少し切り離し、裂くようにして破ること(資料3 点字用紙のちぎり方を参照) 2.点字用紙の端(耳)も同じように折り目をつけてから、ちぎる 3.製本前にページ番号を確認し、上下の向きや順番が間違っていないかチェックする 4.ホッチキス留めは、表紙左上の角に留めるようにする 5.ホッチキスがうまく留まらなかったなど、不安なことがあれば教員に報告する 6.ホッチキス留めをやり直す場合は、点字用紙をしっかりと片手で押さえておき、ホッチキスの後方のへらの部分をホッチキスが留まっている部分に下からくぐらせて上方向に持ち上げる 7.用紙を破らないように、指でホッチキスの芯を抜き取る  製本の順番、上下などがバラバラにならないように、ちぎった後は必ず同じ方向、上下の向きで重ねていくことを伝える。3年生は、毎年同じ作業をしているので、要領を得ており、手際よく作業を進めていた。  普段の授業でも、点字用紙を何枚か重ねてホッチキス留めをしてノート整理をすることがあるので、上級生は慣れている生徒も多かった。1年生やC課程の生徒は、あまり経験したことがない作業であったので、ホッチキスを留める位置や失敗したときの芯の外し方などに苦戦をしていた。  出来上がった点字プログラムは、本校の児童・生徒などへ配布され、生徒自身にとっても、自分たちが製本した物がみんなの手にわたり、自分たちのした仕事が役に立っていると実感することができる瞬間である。このように、誰かの役に立てるという学習内容は、生徒にとって意欲的に取り組むためのよい目標になると感じる。 【資料3 点字用紙のちぎり方】  最初に少しだけ裂くようにしてちぎり、それから紙を押さえるようにしながら分けていく方法を確認した。    点字用紙の端(耳部分)は、織り目を付けてからちぎっていくと、破れずにきれいにちぎることができた。 ⑫ゼムクリップで封筒の封をする  生徒たちが点字用紙などをまとめるときや、配布される複数枚のプリントなどはホッチキスで留めてあることがほとんどである。しかし、大切な書類などは穴を開けずに配布して、保管しておきたいものもある。そこで、点字用紙や封筒の封をクリップで留める練習してみようと考えた。 1. 封筒の封を折り線に合わせて折る  2.小さいサイズのクリップで、封を留める  まず、クリップの存在は知っているが使い方が分からない生徒、使ったことがない生徒が多くいた。  封筒とクリップをトレイに入れて渡し、封を閉じてみるように課題を出した。封を折る方向が分からない、封筒を使用したことがない、使い方も知らない、また、封をした上にクリップを留めずに、封筒の横の部分に留める生徒もいた。  クリップの使い方を尋ねると、知らない生徒がほとんどであった。小さいクリップも扱いにくそうにしていた。そのため、中くらい、大きいサイズのクリップも準備し、大きいクリップで構造を確認することにした。 中央部分の針金を持ち上げると空間ができ、その空間に封筒の封の部分を挟みいれるとクリップが閉じて、封筒が開かなくなる仕組みであることを言葉で説明し、実際に一緒に触って確認する。生徒たちから「ああ、こういう仕組みなんや」「ここに入れるんか」と驚きの声が上がった。  次は大きなクリップで封を留めた見本を全員に配布し、各自で触って仕組みや構造を改めて確認する。また、「ああ、こういうことか」と声が上がる。  改めて大きなクリップで封を留めるように伝えると、試行錯誤しながら時間はかかったがみんな留めることができた。とても嬉しそうな表情であった。もう1回留めるように伝えると、今度は全員が先ほどよりも早く留めることができた。自信を持った生徒たちの中には、「もう1回やってみる」「中くらいのサイズのクリップでやってみるわ」と意欲的に再びチャレンジする者もいた。「中くらいのサイズのほうが使いやすい」という生徒もいた。  このことから、道具の構造や使い方を知らない生徒はたくさんいることを知り、構造や使い方を知れば、スムーズに作業できたり、自分なりに工夫して扱いやすい方法を考えたりして作業できることが分かった。道具を使う前に、構造や仕組みを丁寧に伝えることの大切さ、個人個人によって使いやすいサイズが違うなど、感じることができていなかったことがたくさんあることに気づかされた。スモールステップで取り組むことが大切だと感じた。 【資料4 ゼムクリップの封留め】 クリップの構造を確認する。   封をした場所にクリップを留める。    完成! 4.まとめ  2年間「ADL(道具)」の授業を実施する中で、視覚に障がいを有する生徒たちは見えない・見えにくいだけでなく実体験も乏しいことが多いので、丁寧に言葉で説明したり、道具の構造や仕組みなどを伝えたりしながら、スモールステップで進めていくことが大切であると感じた。時間をかけて具体的な方法の確認と繰り返しの練習をすることが本当の意味での定着になったと実感している。  見えない・見えにくいことから模倣をすることが難しく、何かをはじめるとき、最初の感覚をつかむまでに非常に時間がかかる。そのため具体的な方法を伝え、丁寧に確認し、時間をかけて繰り返し取り組めばできるようになる場面が多かった。道具の仕組みや使い方のコツをつかむと、スピードも早く、作業を進めることができる生徒はたくさんいた。自分一人でできるようになったことで自信を持って作業に取り組む姿勢も見られた。  生徒たちが作業に取り組んでいる時は、すぐに援助をするのではなく、見守ることで、難しそうにしている部分や勘違いしている部分、できていない部分などを確認することができる。その部分を、分かりやすく生徒に伝えるために私たち教員は、どのような支援をすればよいか、どのような見本や提示の仕方をすればよいかを考えることができるのである。  生徒個々の能力に応じた課題に取り組めるような課題を設定することが必要であるため、生徒の学校生活の様子を観察して実態に応じた教材を今後も取り入れていくことが望ましいと感じた。そして、生活が豊かになったり、作業が楽にできたり、できたことで自信となるととらえている。  また、個別ではなくグループで学習することにより、友だちの成功例やアドバイスを聞くことができ、自分自身ができたことを発表することで自信にも繋がる場面や、刺激しあいながら競い合いお互いに向上していく場面も見られた。  今年度はC課程の生徒も一緒に取り組んだが、手指の操作に課題のある生徒であったため、集団の取組みの中でいかに個々に合わせた内容を実施していくのか、ティーム・ティーチングの在り方や個別課題の設定などもさらに検討していく必要があると感じた。 中学部C課程  一日に見通しを持ち、楽しく学校生活をスタートする 「朝の会」の取り組みについて 中学部  中口 真 1.はじめに  中学部C課程の授業である朝の会は、週5時間、朝の1時間目に実施をしている。あいさつ、返事、日付、学校の一日の流れの確認、歌などの取り組みを行い、各教科や領域と関連のある内容を取り扱っている。  朝の会の目的は2つある。1つ目は、学校生活に見通しを持ち、家庭や寄宿舎と気持ちを切り替え、気持ちの良いスタートダッシュをかけることである。多くの生徒たちにとって、一日の見通しは重要である。見通しを持てていないと、その場から動けなくなってしまったり、何度も不安になって質問をしたりして気持ちを切り替えられないことがある。今日、自分が「どこで」「誰と」「何を」するか、朝の会で知ることで安心感を持って学校生活を送ることができると考える。  2つ目は、友だちや教員とともに一日を自分が作っていくのだという認識をする場である。友だちの話を聞いたり、自分のうれしかったことを話したりする活動は、他者を意識し、コミュニケーション能力の向上を図る重要な役割を果たしていると考える。  2年間授業に取り組む中で、生徒たちが心理的に落ち着いて学校生活を送れるようになり、コミュニケーション能力の向上も感じられた。また、生徒たちは授業に取り組む中で、緊張がほぐれ期待や意欲に満ちた表情を見せてくれることが増えてきたように感じる。今回は、朝の会の取り組みや生徒の変容について一部ではあるが紹介をしていきたい。   2.生徒の実態  C課程には、令和5年度は男子2名、令和6年度は男子3名が在籍していた。いずれも、知的障がいと視覚障がいとの重複障がいの生徒である。弱視、全盲、自閉的傾向がありこだわりが強いなど、生徒たちの特性や障がいの実態は様々である。コミュニケーションに関しては、日常会話ができる生徒もいればタブレットやサインなど自分なりの方法で意思の表出を行う生徒もいる。また、学校生活に見通しが持てないという不安から、他傷をしたり、学校を休んだりして気持ちを整えたりすることがしばしばあった。 3.取り組み内容  朝の会では、日直の生徒が司会を務めて授業の進行、始まりの挨拶などを教員にサポートを受けながら行っている。司会は日替わりである。ドロップタップというアプリケーションに授業の流れが全て入っていて、タブレットを使用する生徒は、該当の箇所を押して進めていく。  教員は生徒たちの横について、それぞれの方法で表出を待つ時間を持ち、質問に答えにくいときなどに言葉かけを行う。また、会話ができない生徒については、様子や思いを代弁して他の生徒に伝えるようにしている。  朝の会の授業構成は以下の通りである。 (1)おはようの歌  朝の会のテーマ曲「おはようの歌」を歌う。 →この曲を歌うことで、学校生活の始まりを意識することを目的としている。全員がタンブリンを叩いて場を盛り上げる。1時間目ということもあり、眠そうにしている生徒もこのメロディーが流れると体を起こして元気よくタンブリンを叩き始める。リズムに乗って前向きな歌詞を歌うことによって心が乗り、晴れやかな気持ちで学校生活をスタートさせることができる。また、友だちや教員の歌声を聴いて、自分も歌おう!楽器を鳴らそう!とする姿が見られる。 (2)出席・体調の確認  日直の生徒は、相手の方を向いて名前を呼ぶ。呼ばれた生徒は、手を挙げ、声を出して返事をする。体調については、ジェスチャーやタブレットを使って皆にわかるように伝えている。 →おはようの歌で眠い気持ちを切り替えて、友だちや教員の存在を意識し、学校に来たと感じることができるので、出席確認の時は元気に返事をする生徒が多い。ジェスチャーでコミュニケーションをとる生徒は大きく手を挙げて返事をし、同時に声を出して答えることができるようになってきた。  体調確認では、多少しんどそうにしていても元気と答える生徒が多い。タブレットを使う生徒は「元気」以外の選択肢の一つである「鼻水が出ている」などともよく答え、教員を心配させることもあった。 出席確認で友だちの名前を呼ぶA 出席確認で返事をするB (3)日付と天気の確認  日直が日めくりカレンダーをめくる。その後に、日付や曜日を全員で確認をする。タブレットを使用する生徒については、タブレットで今日の日付や曜日を発表するようにした。英語でも日付や曜日の確認を行う。 →「今日は何月かわかる人?」と教員が質問して、生徒たちが答える。日付をしっかり覚えていて正解することが多い。日直の生徒は正解の情報をもとに日めくりカレンダーをめくる。タブレットで発表する生徒は、数字の配置を覚えて教員が言った数字を探して押すことで曜日や日付を発表することができるようになった。英語の日付確認では、月や曜日を自信満々に答えている。 日めくりカレンダーをめくるC タブレットで日付を答えるA (4)家庭や寄宿舎での様子の確認  連絡帳をもとに、昨日の夜は何をしていたか、どんなご飯を食べたのかなどのエピソードを発表する。教員は生徒に話しかけて、どんなことがあったのかを思い出し、話すことができるように言葉かけを行う。 →自分の発表を楽しみにしていて、積極的に昨日の話をする生徒もいる。楽しかったことや喜びを教員や友だちと共有することを続けることにより、話す力がついてきた。保護者からの連絡帳や食べたものの発表をニコニコしながら聞いている生徒が多い。また、ジェスチャーで答える生徒は、夕食の発表で「おいしい」と主体的に表出できるようになってきた。 昨日の夜の様子を発表するD 「美味しい」と       ジェスチャーするC (5)今日の予定の確認  時間割や予定を聞いて一日に見通しを持つ。 →生徒によって時間割が違うこともあるのでゆっくり丁寧に伝えている。 教員が予定を発表した後に「今日は○○の授業はある?」、「○○の授業はなくなった?」など、自分の中で教員から聞いたことを咀嚼して口に出して質問する生徒がいる。朝の会の予定確認で聞いたことを終日覚えていて、「次の○○はなくなった」と時々口に出しながら、安心して次の行動に移ることができている。 (6)給食の確認  教員が給食の予定を発表しているのを聞く。 →朝の会が始まる前から、「今日の給食は何?」と聞いてくる生徒がいて、この給食の発表には熱心に耳を傾ける生徒が多い。特に週に1回のパンの予定を楽しみにしている生徒も多い。 (7)英語の歌(令和6年度より) 「Sunday Monday Tuesday」を歌う、「Head shoulders knees and toes」を踊る。 →令和6年度からの取り組みである。この2曲を楽しみにしていて、大きな声で歌ったり、踊ったりしている。「Sunday Monday Tuesday」については、日付の確認で毎日確認をしている曜日について、英語でも親しみがもてるように歌に取り入れた。2名の生徒は、曜日の英語の意味をほぼ理解して歌っているように感じる。  「Head shoulders knees and toes」については、席から立って、曲に合わせて身体をしっかり動かすことで、覚醒できることを狙っている。「Sunday Monday Tuesday」の曲が終わったらすぐに席を立ってこの曲に備えるなど生徒たちみんなはやる気十分である。 Head shouldersを踊るB Sunday Mondayを歌うC 4.まとめ  2年間、朝の会の授業を実施する中で、この授業が生徒たちに与える影響の大きさを理解することができた。  朝の会の授業が毎日あることで生徒たちはリラックスして、リズムを整えて、家から学校へと気持ちを切り替えて学校生活へのスタートダッシュをかけることができているように感じる。連絡帳の発表から予定の確認という授業の流れの中で、過去と未来をリンクさせ、頭の中で整理することができ、見通しを持つことができる要因になっていると考える。学校での一日に見通しがつくようになって、不安が減り、心理的な安心が得られるようなり、落ち着いて学校生活が送れるようになってきたように思う。  コミュニケーション面でも毎日の授業の中での積み重ねにより、少しずつ変容が見られている。会話できる生徒については、会話の幅が広がり、連絡帳などでの教員とのやり取りの中で積極的に話をすることができるようになったと感じる。発語のない生徒についても、まだ促がしが必要なことも多いがジェスチャーを使ったり、返事の際に声を出したりすることも増えてきた。また、友だちの発表についても少しずつ意識をして聞くことができるようになってきた。ただ、生徒、教員間のコミュニケーションは問題なくできているが、生徒間でのコミュニケーションについては、ほとんどできていないので、今後は友だちを意識してやりとりができるような取り組みを考えていきたい。  このような活動を積み重ねることで、卒業後に社会で生き抜く力が育まれると考えられる。今後も、生徒が意欲的に取り組める内容を活動に取り入れ、楽しく一日がスタートできるよう授業を工夫していきたい。 視覚障がい教育における 中学部・高等部普通科合同授業の取組みと課題 高等部普通科  浅間 耕一  はじめに  視覚障がい教育における全国的な動向として、生徒数の減少が深刻な課題となっている。中学部および高等部普通科においても、生徒数の減少が顕著であり、学校運営や授業の実施に影響を及ぼしている。このような現状を踏まえ、より効率的で効果的な教育を提供するための取組みが各地で模索されている。  本校においても、中学部および高等部の普通科における生徒数減少を受け、合同で授業を行う取組みが始まっている。本論では、昨年度と今年度に実施された授業の取組みについて、その成功点と課題、今後の展望を考察する。 1. 取組みの概要  本校の中学部・高等部普通科の教育課程は、教科書を用いた授業を行う準ずる教育課程(A課程・A類型)、基礎学力の定着に重点をおいた教育課程(B課程・B類型)、自立活動を中心とした教育課程(C課程・C類型)の3つの類型がある。これにより、各生徒の学習ニーズに応じた授業が行われている。   過去5年間の中学部および高等部の普通科における生徒数(表1) 中学部 高等部普通科 年度 全体 A課程 B課程 C課程 全体 A類型 B類型 C類型 令和2年度 12 2 6 4 17 2 10 5 令和3年度 12 2 7 3 17 2 9 6 令和4年度 13 2 7 4 17 3 8 6 令和5年度 11 2 8 2 12 2 4 6 令和6年度 8 1 4 3 15 4 8 3    これまでも中学部・高等部普通科は、それぞれの学部の中で①教科の専門性の向上と②集団による生徒の相互作用による他者への関心を育成することを目的として、異なる学年の生徒が合同で授業を受ける機会があった。(異学年合同授業)  昨年度からは異学年合同授業に加えて、C類型の運動の授業(令和5年度中学部2名、普通科6名、令和6年度:中学部3名、普通科3名)、さらに今年度はリズムの授業(令和6年度:中学部3名、普通科3名)で学部を超えて合同授業を実施した。(学部間合同授業)  運動の授業では基礎的な運動を行い、大きな授業の流れはどの教員が主担当で授業を行っても同じような流れになるように統一した。まず始めに①ランニング②ウォーキング③体操を行い、そのあと体つくり運動やサーキットトレーニング、音楽に合わせた運動や、ボールを使った運動、水中での運動を行った。また、授業の内容について事前に指導略案を作成して目標や授業内容を周知し、共通理解を図るようにした。授業場所は課題に合わせて体育館やプレイルーム、グラウンドなどで行った。運動は中学部も普通科も週3時間で、時間割上同じ時限に入るように年度初めに調整をした。  リズムの授業は基礎的な音楽活動、例えば校歌や季節や行事に関係する歌を歌ったり、楽器の演奏、合奏を行ったりした。授業場所は主に音楽室で行った。リズムは中学部で4時間、普通科は5時間で普通科の方が1時間多かった。年度初めに時間割調整を行い、月曜日から木曜日までは合同授業を行い、金曜日のみ普通科単独で授業を行った。金曜日は3人のみなので、普通科の教室でゆっくり音楽に合わせて体を動かすリトミックを行った。     中普合同運動(水泳・宝探しの課題)  中普合同リズム(楽器の合奏) 2. 成果  学部間合同授業の最大の成果は、授業の人数が増えたことで生徒間の相互作用がより活発になり、活動の幅が広がった点である。  令和6年度のC類型の生徒数は、中学部と高等部普通科のどちらもそれぞれ3名であるため、欠席者が1名いるだけで集団を形成しにくくなり、授業の進行に支障が出ることが想定された。しかし、合同で6名の人数が集まったことで、運動やリズムのテンポ感が維持され、程よい集団活動が展開された。あまり人数が多すぎると、待ち時間が増え集中力を欠く可能性があるため、適切な人数が鍵となった。6名程度でちょうどよかったという教員の意見もあった。  さらに、3名の生徒では個々の実態に大きな差が生じるが、人数が多い方が各生徒の実態に合わせた複数での活動がしやすくなった。例えば、二人一組で活動をするときに、生徒の実態に応じて組を作り、強度や回数を変えて活動を行うことができた。また、集団の中での相互作用により、生徒の興味を引き出し、他者への関心を育てることもできた。    教科別にまとめると以下のような効果が見られた。  〈運動〉 生徒数が多くなったことで、チームを編成して行うゲームやグループ活動が充実し、生徒間のコミュニケーションや協力の機会が増えた。これにより、生徒一人ひとりの社会的スキルの向上が期待できた。(活動の充実)  〈リズム〉より多様な楽器や役割を割り当てることが可能となり、合奏の音楽的完成度が向上した。複数の生徒がそれぞれの特性を活かし、協力して一つの作品を作り上げる経験は、学年を超えた協力意識を醸成した。(合奏活動の質の向上)       中普合同運動(体操)    中普合同リズム、(リズム打ち) 3. 課題 合同授業を実施する上で、いくつかの課題も浮かび上がった。 ・ 生徒個別の課題を把握する難しさ  生徒の学習ニーズに応じた適切な支援を行うためには、それぞれの学部の生徒の実態をよく把握する必要がある。今年度は中学部の生徒には中学部の教員が、普通科の生徒には普通科の教員が必要に応じて支援することが多かった。しかし、将来の教員数減少を見据えると、より柔軟な対応が求められる可能性がある。学部間での連携を図るための時間やリソースは限られているため、個別支援の質を維持するための工夫が求められている。   ・教員間の連携  中学部と高等部の教員が協力して授業を進める中で、指導方針に違いが生じないようにすることが重要である。学部間合同授業においては、生徒の年齢による特性も把握しつつ、授業として一貫した指導が求められるため、教員間の意思疎通をさらに強化していく必要がある。 4. 今後の展望  今後も視覚障がい支援学校における生徒数の減少は続くことが予想される。それに伴い、教員の定数も減少し、教科を担当する教員が不足する可能性が高い。今後、運動やリズムの授業に限らず、他の教科でも中学部と高等部の合同授業を行う必要が生じるだろう。  その際に重要なのは、生徒個々の学習課題をしっかりと把握し、教員間で密接な連携を図ること、そして両学部の教育課程に合わせた授業の計画を立てるための配慮である。合同授業を導入する際には、教員の配置や時間割の作成、特別教室の利用などの調整が必要になるため、事前の準備や柔軟な対応が求められる。 5.結論  視覚障がいを有する生徒に対する中学部・高等部合同授業は、生徒数の減少という現状に対応しつつ、生徒により豊かな学びの場を提供する有効な手段である。人数の増加による活動の多様化は、学びの質の向上に寄与した一方で、個別支援や教員間の連携に関する課題も浮かび上がった。さらに、今後も生徒数および教員の減少が見込まれる中で、合同授業の拡大を進めるための工夫が不可欠となる。これらの課題を克服し、効果的な合同授業を展開することが、今後の重要な課題となるだろう。 (資料)運動授業の3学期の計画 (主担当の教員が変わっても、生徒が理解しやすい授業を展開するために、学期の初めに授業主担者で計画を確認する) 単元名 運動 【流れ】  1. はじまりの挨拶、点呼 2. ランニング・ウォーキング 3. ラジオ体操・オリジナル体操 4. はじめる準備 主担当の教員から指示が出たときは生徒と一緒にご準備よろしくお願いします。(主にサーキット時) 5. 種目 種目の際はマンツーマン対応ですのでご支援・ご指導よろしくお願いします。 内容は種目に合わせて生徒のコンディションを見ながら進めていきます。(回数や時間等) 6. 片づけ 主担当の教員から指示が出たときは生徒と一緒に片付けよろしくお願いします。(主にサーキット時) 7. おわりの挨拶 【種目】 月曜日(3限) 水曜日(2限) 金曜日(2限) 体つくり運動・ 体ほぐし運動 球技 サーキット トレーニング 【1月 (場所:プレイルーム) 状況により変更することがあります】 月曜日(3限) 水曜日(2限) 金曜日(2限) 体つくり運動・ 体ほぐし運動 ゴールボール サーキット トレーニング ボールはさみ コロコロカート 台風のめ ボール運び コミュニケーション スロー(投げる) キャッチ(とめる) ゴール(ねらう) ゲーム ろくぼく トランポリン 平均台 踏み台昇降 バランスボード 【2月 (場所:プレイルーム) 】 月曜日(3限) 水曜日(2限) 金曜日(2限) 体つくり運動・ 体ほぐし運動 サウンドテーブル テニス サーキット トレーニング ボールはさみ コロコロカート 台風のめ ボール運び コミュニケーション 打つ 返す パス きめる ミニゲーム ろくぼく トランポリン 平均台 踏み台昇降 バランスボード 【3月 (場所:プレイルーム) 】 月曜日(3限) 水曜日(2限) 金曜日(2限) 体つくり運動・ 体ほぐし運動 フロアーバレーボール サーキット トレーニング ボールはさみ コロコロカート 台風のめ ボール運び コミュニケーション 打つ 返す パス きめる ミニゲーム ろくぼく トランポリン 平均台 踏み台昇降 バランスボード 「高等部普通科 進路の取り組み」 高等部普通科  梅本 愛喜 1.本校普通科における進路指導の3つの柱  「援助依頼」…自身の障がいに関することで、難しいことや助けてほしいことについて自ら周囲(相手)に発信する力(R3年度より)  「自身の強み」…自分の得意なこと、好きなことを発揮したり、周囲に共有したりする力(R4年度より)  「お金」…お金に関する知識を深めたり、管理方法を学んだりする力 (R5年度より)  本校では4年前から、この3つの柱(テーマ)の下、進路指導を行っている。この柱を進路部-学部間で共有しながら、一人ひとりに応じた進路指導を教職員全体で実践している。 2.3つの柱を実践できる体制(環境)づくり  高等部普通科では、3つの柱を生徒自身が実践・実感に繋げられるように、5つの体制を設定してきた。 (1)普通科進路指導オリエンテーション(4月上旬頃実施) (2)校内・現場実習の実施(6月・10月に実施)年2回 (3)事前指導、事後指導の実施(校内・現場実習前後)年4回 (4)職業の授業(年間を通じて) (5)生活の授業(年間を通じて)   【5つの体制】 (1)普通科進路指導オリエンテーション  年度当初に行う普通科全体オリエンテーションの中で、進路指導オリエンテーションを設けて、進路担当教員の紹介、1年間の進路指導の流れ、進路の心得、学校と社会の違いなどについてのオリエンテーションを実施している。        進路の心得  ①自分ができる表現で挨拶をしよう。  ②丁寧な言葉で話そう。  ③時間を守ろう。(守れない時は理由を説明しよう。)  ④ほうれんそうをしよう。  ⑤投げ出さない。(少しの我慢ができるようになろう。)   (2)校内・現場実習の実施  1年生の6月から校内実習を5日間実施し、10月には、学校外の事業所で現場実習を行っている。校内実習では、作業(仕事)に取り組む際の態度やほうれんそうの必要性を説明し、商品を丁寧に取り扱うという意識が持てるようにした。事前に教員で打ち合わせを行い、教室のレイアウトから作業工程の流れ・作業手順の配慮など、きめ細かく体制を整えている。軽作業では、今まで触れたことのある商品や日常でイメージできる商品を扱うことで作業に対する意識や意欲も維持した状態でできている。   (3)事前指導、事後指導の実施(校内・現場実習前後)  生徒一人ひとりが何のために校内実習・現場実習をするのかを考えられるように、まずは学年ごとに考える時間を設定し、その後、全体指導を行うようにしている。  事前指導では、実施期間や行先、取り組み内容の発表や実習に向けての決意表明などを行う。  事後指導では、実習で学んだことや学校と社会の違いは何かを自ら考え、発表できるようにしている。  事前・事後指導では、学年単位から学部単位の集団という形式で実施することで大阪北視覚支援学校高等部普通科の生徒の一員として実社会にでていくという意識づくりを大切にしている。  そうした取り組みを行うことによって、他者に対しての応援や質問、興味関心に繋がっている。近年の事後指導では、全員で実習に取り組み、互いを称え合えるように一丁締めをして事後指導を終え一体感がでてきている。   (4)職業の授業(年間を通じて) A類型・B類型対象  職業の授業の中で、特に意識して行っていることは社会性の構築である。高等学校に準ずる教育課程の生徒(A類型)や下学年対応の教育課程の生徒(B類型)が受けている職業の授業で具体的に取り入れたのは、ソーシャルスキルトレーニングと模擬会社(OPB会社)の設立である。OPB会社とは、オリジナル ペーパー バックの略で紙袋を制作する会社として設定している。  ソーシャルスキルトレーニングでは、一つのテーマで小集団を作り、テーマについて自分の考えや相手の考えを聞き、それを集団ごとにまとめていく。そして最後に他者に分かりやすいように発表していくという流れを3年続けてきている。その中で、生徒は「想像する力」が少しずつついてきている。以前は自分の考えのみで物事を判断して発言することが多かったが、ソーシャルスキルトレーニングを積み重ねていくことで、相手はどう考えるかという言葉が出たり、発言の前に整理してから話したりする生徒が増えてきた。今後の課題としては、学習時間の学びで終わるのではなく、実生活でも持続して学びを活かしていけるような意識づくりの構築が課題である。    模擬会社(OPB会社)では、紙袋をデザインする会社という設定で学習を行ってきた。オリジナルな紙袋を制作するために、3つの部門を設定した。 〇クリエイター部門…紙袋のロゴやイラストのアイディアを形にする。 〇マークファクター部門…オリジナル紙袋制作にあたっての作業をする。 〇ビジネス部門…制作した紙袋を学校職員に営業する。    この3つの部門に分かれて、生徒の実態と希望を調整しながら進めている。実際の会社で働くイメージを持つために、模擬面接も行った。そこで自己紹介を5つのポイントで相手に分かりやすく伝える練習を繰り返し行い、模擬面接を実施した。5つのポイントとは、名前・所属・見え方・援助依頼項目・自身の強みの5つである。自分のことを自分の言葉で伝えられることに重点を置き、伝えたことで周りがどのように反応してくれたり、配慮してくれたりするのかを実感できるように面接環境を整えた。また繰り返し練習した自己紹介を普段は関わりの少ない職員(事務室や栄養教諭等)にも実践し、自己紹介を聞いた職員には振り返りシートを記入してもらい、生徒へのフィードバックへと繋げた。3年間、同じことを続けていくことで、3年目には、自己紹介を躊躇することなく伝える生徒が大半を占めてきた。    模擬会社では、生徒たちが意欲的に取り組めるように工夫も行った。1年目は、「視覚障がいの啓発」2年目は「お客様のニーズ」、3年目は「自分達で考えるオリジナル」というテーマを設定して行ってきた。大枠を決めてその後は生徒たち自身が取捨選択できるようにしていくことで一人ひとりが主体的かつ意欲的に活動に参加できている。1つの商品を作るのに、自身のスキルを活かすこと、仲間と協力して行うこと、受け取る側の立場になって物を制作することなどたくさんの要素から成り立って1つの商品ができることも実感できるようにしている。また紙袋の作成にあたって視覚面で難しい作業(紙袋の切り込み作業など)では、教員に援助依頼をしていた。他にも作業工程がスムーズに行えるよう仕切りカゴがあると作業しやすいなどの援助依頼も習慣的にできてきた。生徒からは、「どんなふうにしたらお客さんが喜んでくれるか」「作業の期日を守るために、どうしたら効率よくできるか」などの意見もあり、相手を意識した言動が活発になってきた。   【職業のOPBの授業計画】(R6年度 全13回の授業予定) 実施予定日 内容 目安 1 9月18日(水) OPB計画(オリジナルの紙袋を完成させる計画) 会社説明 2 9月26日(木) OPB1(各班活動) 紙袋の制作会議 3 10月7日(月) OPB2(各班活動) アイディアや調査1 4 10月21日(月) OPB3(各班活動) アイディアや調査2 5 10月28日(月) OPB4(各班活動) 制作 6 11月8日(金) OPB5(各班活動) 制作 7 11月11日(月) OPB6(各班活動) 制作 8 11月18日(月) OPB7(各班活動) 制作 9 11月25日(月) OPB8(各班活動) 制作 10 12月2日(月) OPB9(各班活動) 検品 11 12月9日(月) OPB10(各班活動→全体へ発表) 紙袋のプレゼン 12 12月16日(月) OPB営業アポイントメント取り方・練習 アポイントメント (全体→各班活動) 練習 13 12月23日(月) OPB営業・業績報告(各班活動→全体) 営業 【自己紹介項目】 ① 名前 ②所属 ③見え方 ④援助依頼面 ⑤自身の強み 【援助依頼面】 ① 移動に関すること ② 情報に関すること(代読・代筆等) ③ 食事に関すること ④ 物の管理に関すること ⑤ 作業に関すること   視覚障がいの啓発の紙袋         ニーズを取り入れた紙袋 ポストカードを用途に合わせてカスタマイズできる仕様になっている。 職業の授業では、その他にも本校の特色ある職業授業が展開されている。担当教員からの授業内容を以下に記載する。  B類型のみ対象の模擬会社(Bカンパニー)では、点字の名刺作りを行っている。点字の名刺が欲しい教員から依頼を受け、文字が印刷された名刺カードの枠をちぎる作業、点字を打つ作業、名刺の角を丸くする作業、飾りをつける作業等、それぞれ分担して作業を行っている。指導の中では、特に報告・連絡・相談(ほうれんそう)をし、他者と連携して作業を行うことを大切にしている。それと同時に、それらはミスを減らすことや効率よく作業ができることにもつながるといった意義を説明している。その結果、はじめは失敗をした時になかなか言えなかった生徒も、ほうれんそうの大切さを理解し、失敗があった際には教員に報告すると同時に、次からどのようにしたら良いかを自ら考える姿勢が見られてきた。名刺が完成した後は、なるべく生徒が依頼者に直接手渡ししている。その際、紙幣の教材を用いて、名刺と引き換えに代金をいただくことにしている。紙幣やお礼の言葉を直接もらうことで、働くとお金がもらえることや、作業することへの喜びにつながっていると考える。実際、飾り付けされた点字の名刺は大変喜ばれており、お渡しした時に「1枚1枚デザインが違ってかわいい」「渡したときにとても評判がいい」といったような言葉を多数いただいている。授業の前には「今日もやるぞ~!」とやる気に満ち溢れた生徒の姿が見られている。今後はもらったお金をどのように使うか等、お金の管理に関することを含めて授業を行っていく予定である。   (5)生活の授業(年間を通じて) C類型対象  生活の授業の中で意識したことは、「人のために何かをする」という意識の習慣化である。この授業の対象者は、自立活動を中心とした教育課程でC類型の生徒が対象である。  朝の生活の時間を使って、色々な所に出向き、教員と共に仕事の依頼を行い、仕事が完了したら仕事達成カードにシールをもらうという流れを月曜日~金曜日の1時限目に実践している。  具体的な仕事には、ごみ捨てのお仕事や机ふき、書類を届けたりする業務を主に行っている。依頼にいく場所は、職員室、保健室、事務室、校長室、用務員室、寄宿舎などさまざまで、依頼を受けて仕事の実践をしている。仕事を終えて、シールをもらう際に、「ありがとう」「助かったわ」「いつもえらいね」などの言葉をかけてもらうことで自分が人の役に立っている実感が持てるように毎日行っている。  また、昨年度には、校長先生から学校周辺の落ち葉拾いの清掃の仕事依頼を受け、2週間実践した。近隣住民の人からも温かい言葉をかけてもらう場面もあり、社会貢献の意欲も向上していた。「今日も学校の周り(地域)をきれいにするんだ」などの発言をする生徒もでてきた。このような取り組みを毎日実践することで「人のために何かをする意識」が構築されてきている。生徒からも「今日のお仕事は…」という言葉を発する生徒も現れ、仕事をしているという意識が芽生えてきた。また「今日は(関わりの少ない)○○さんとお話した」という機会も設けられるので、新たな人との交流や名前を覚えていくことにも繋がっている。そうすることで日常会話のきっかけにもなっている。                                         仕事達成カード                            仕事完了後、シールを                            もらう。   3.3つの柱と5つの体制づくりの成果 (1)日常的に援助依頼をする習慣が身についてきた生徒が増えた。 (2)自身の強みを「趣味で活かす」か「仕事で活かす」かを明確に意識できるようになってきた。 (3)仕事はお金を稼ぐための手段の一つでもあるという意識や発言が出てきた。 (4)社会で求められるスキルは何かを多くの生徒が実感できるようになった。 (5)人のために何かをするという意識が芽生えた。   4.キャリアプランニング・マトリックス  キャリアプランニング・マトリックスは、R4年度より作成を開始し、 R5年度から運用している。作成にあたって各学部の進路部と当時の管理職を中心に作成を行った。重要視していたことは、キャリアプランニング・マトリックスのみにしばられた教育活動にならないようにしようということであった。キャリアプランニング・マトリックスは、幼稚部から高等部卒業までの間「系統性・継続性・一貫性を持った教育活動」を展開し、支援・指導の充実を進めるための指標とするもので、必ずしも到達しておかなければいけないというものではないということを教職員に適宜発信し、キャリアプランニング・マトリックスの作成を行った。運用を開始したR5年度には、進路だよりでお知らせを行い、学校のHPにも公開した。このキャリアプランニング・マトリックスを活用・実践するために、各学部の進路テーマも設定した。そして進路だよりに各学部の取り組みや実践が1枚の紙で確認できるように年に2~3回の進路だよりも発行している。  外部から本校に研修に来られた日本ライトハウスの職員の方からも「本校の先生方が早期教育から手先の巧緻性や触察を大事にして、歩行訓練にも力を入れ、幼児・児童・生徒の可能性を引き出し、社会参加の準備を早期の段階から系統立てて行っていることが分かりました。」というようなお言葉をいただいた。また、令和6年度は、株式会社 かんでん エルハートに所属するキャリア支援アドバイザーの方からも普通科の校内実習のソーシャルスキルトレーニングの授業を見学していただく機会があった。「キャッシュレスについて」の意見交換を生徒たちがする様子を見学し、様々なアドバイスをいただいた。今の時代に必要になってくる知識やそれぞれの考えを話し合ったり、意見を逆転して話し合ったりする取り組みの見学を通して、本校の先生方、一人ひとりが進路指導に対する強い想いを持って教育活動にあたっていることへの理解を得ることができた。   5.さいごに  3つの柱と5つの具体的な取り組みを実践している中で新規開拓や着実な成果を出せるようになってきている一方で、措置対応の生徒、情緒が安定しない生徒、生活リズムが安定しない生徒などの進路先には、課題が多く残っている。集団生活や社会生活に必要な力を学校だけで構築できるのには限界がある。卒業後の居住地の問題、家庭の協力、医療機関との連携、相談支援や就職・生活支援員センターとの連携など、どこまでを誰がするのが適切なのかを判断に迷うこともある。また生徒に対しての実態把握もそれぞれの立場で一人ひとり違うからこそ、適切な支援や指導の認識も異なっていく。就労準備性に基づく生徒への支援・指導を心がけているが、うまくいかないケースや混乱を招くケースも年度ごとに数件あるのも現状である。その他にも大学や専門学校等に進学するケースも年度によってある。進学指導には、学びたい分野を明確にして、オープンキャンパスに参加したり、個別教育相談を実施したりしながら、進学計画を生徒・担任を中心に設定し、進学に向けた取り組みを行っている。実際には、夏季休業を利用した補習や面接指導などを実践している。本校では、過去5年で社会福祉士や教員免許が取得できる大学に進学した。  一人ひとりが自己選択・自己判断・自己決定ができるように今後も教職員が一丸となって進路指導の充実を図れるようにしていきたい。また適宜、関係機関との連携も深め、生徒の自己実現へと繋げられるようにしていきたい。  最後に本校の過去5年間の進路状況をお伝えし終わりにする。    過去5年間の進路状況(高等部普通科) 進路先 R1 R2 R3 R4 R5 進学 大学・短大 1 1 専門・専修学校 視覚支援学校上級課程 (理療系) 1 就職 一般企業(障がい者枠) 公務員(障がい者枠) 1 家業・縁故 訓練校 障がい者職業訓練校 1 福祉 就労移行支援(資格取得型) 就労移行支援(一般型) 1 就労継続支援A型 1 就労継続支援B型 1 2 3 1 自立訓練(機能・生活) 1 1 1 1 生活介護 4 1 1 2 2 地域活動支援センター その他 1 合 計 8 3 5 8 5 【主な進路先詳細】 進学:「本校理療科」「神戸医療福祉大学」「四天王寺大学」 就職:大阪市会計年度職員(スクールサポートスタッフ) 訓練校:大阪市職業リハビリテーションセンター 福祉:リタリコワークス(就労移行)、ステラ守口(A型)    日本ライトハウス(自立訓練)    ペタル、オトラボ、スペース遊、ぴあらいふ 等(B型)    お気楽島、花の会、雨でも曇りでも晴れたね、海萌 等(生活介護) 教科・理療における 科目間の関わり・つながりを踏まえた、 具体的な指導内容や授業の工夫等について 高等部理療科 1.はじめに  全国67の視覚障がい者対象の特別支援学校のうち54校に理療系学科が設置されており、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの職業教育が実施されている。  本校には、高等部に「本科保健理療科」、「専攻科保健理療科」、「専攻科理療科」の課程が設置されており、今年度、専攻科保健理療科に5名、専攻科理療科に11名、計16名の生徒が在籍し、職業自立をめざして学習に取り組んでいる。なお、「本科保健理療科」については、ここ数年在籍者がおらず、現在募集停止となっている。 ※ 本科保健理療科:中卒中途視覚障がい者を対象とした3年課程で、卒業時には、高卒資格と、あん摩マッサージ指圧師国家試験の受験資格を取得できる。 ※ 専攻科保健理療科:高卒以上の視覚障がい者を対象とした3年課程で、卒業時には、あん摩マッサージ指圧師国家試験の受験資格を取得できる。 ※ 専攻科理療科:高卒以上の視覚障がい者を対象とした3年課程で、卒業時には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験の受験資格を取得できる。  生徒は、3年間で、教育課程に基づいて、概ね以下のような十数科目の座学・実習の科目を履修・習得する。 ・基礎科目:生物化学概論、体育、コミュニケーション概論 ・専門基礎科目:基礎医学(解剖学、生理学、病理学等)  臨床医学(診察、症状、リハビリテーション等) ・専門科目:東洋医学、経絡・経穴、あん摩はりきゅう理論、治療論等 基礎実習(あん摩・マッサージ・指圧、はり、きゅうの各実習) 臨床実習(地域の外来患者に対しての治療実習) ※ その他、解剖実習見学、敬老治療奉仕、臨床講演会、就職支援セミナー、夏季現場実習、保護者あん摩体験等の行事を実施している。  なお、教育課程は、「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師に係る学校養成施設認定規則」に準拠し、各学校・養成施設で定めることとなっている。現行の認定規則は、教育の質を高めることを狙いとして2016(平成28)年に改正されたもので、2018(平成30)年度入学生から適用されている。2016(平成28)年の改正の柱は、総単位数を引き上げるとともに最低履修時間数を新たに設定したことであり、これによって、あん摩マッサージ指圧師の課程は77単位から85単位以上(2385時間以上)、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の課程は93単位から100単位以上(2835時間以上)となった。これに合わせて教育課程についても検討がなされ、基礎科目ではコミュニケーションの必修化が、専門基礎科目では社会保障制度及び職業倫理の追加と運動学の充実が、専門科目では、あはきの適応の判断・病態生理学・生体観察の追加並びに東洋医学概論・経絡経穴概論の充実等が盛り込まれた。  このように、卒業までに履修・習得が求められる知識・技能は年々増加の傾向がみられ、職業自立の前提である国家試験に合格するためにも、また職業人としての高い臨床能力を身に付けるためにも、より効率的な授業の実践が必要なのではないかとの意見が出された。そこで、今回、理療科教員10名を、「専門基礎科目班」、「専門科目班」、「実習班」の3班に分け、科目間の関わり・つながりを踏まえた、具体的な指導内容や授業の工夫等について検討することとなった。  本稿では、まず、昨年度検討を重ね、今年度入学制から適用している新教育課程変更のプロセスについて触れた後、各班の検討結果を報告する。 2. 2023(令和5)年度専攻科保健理療科および専攻科理療科の教育課程変更のプロセスについて 教務部 (1)教育課程変更を検討するに至った経緯  2016(平成28)年4月に大阪市立の特別支援学校が大阪府に移管されたことに伴い、大阪府立の視覚支援学校が2校となった。それに伴い、理療科の教職員も異動対象となり、筆者自身、2019(平成31)年4月に大阪南視覚支援学校(以下、大阪南)から大阪北視覚支援学校(以下、大阪北、あるいは本校)に異動することとなった。  異動してみて大阪南にない大阪北の魅力を実感する【注1】一方で、大阪北の教育課程の内容と科目名に違和感を覚えることがいくつかあった。  最初に戸惑ったのは大阪北独特の科目の略称であった。例えば生理学は「人生」、病理学は「疾病(しつびょう)」、東洋医学概論は「基東」、理療理論は「基理理」、理療臨床論は「臨理臨」と呼ばれていた。この呼称の理由を尋ねると、「人生」は、「人体の構造と機能」の「生理学」を略したもの、「疾病(しつびょう)」は「疾病の成り立ちと予防」の「病理学」を略したもの、「基東」は「基礎理療学」の「東洋医学概論」を略したもの、「基理理」は「基礎理療学」の「理療理論」を略したもの、「臨理臨」は「臨床理療学」の「理療臨床論」を略したものという話であった。このような略称になったのは、2000(平成12)年のあん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師に係る学校養成施設認定規則改正に伴う科目名の大綱化を受けて、例えば「生理学」は「人体の構造と機能」の一部であるということを強く意識付けるために、その当時に変更された教育課程が適用されるタイミングで、このような名称を使い始めたそうである。長年この略称に慣れているベテランの理療科教諭は気にならないようであったが、比較的経験年数の教員は同様の違和感を抱いており、生徒に聞いてみると、略称が独特のため時間割を見ても実際にどの教科書を使った授業かわかりにくいという意見を度々聞いた。  次に違和感を覚えたのは、臨床医学各論がすべて3年生で行われていることであった。大阪北では2年生の後期から実質的にあん摩臨床が始まるにもかかわらず、2年生では整形外科疾患についてすら学ぶ機会がなかった。このような状況であったため、臨床実習で既往歴や現病歴について問診しようにも、2年生の後期のみならず、3年生になってしばらくの間も生徒が十分な問診をできない実態を目の当たりにした。これはいくら生徒の基礎的な能力が高かったとしても、必要な知識を学ぶ機会が提供されていないのだから、致し方ない。なぜこのような教育課程なのかをベテランの教諭に尋ねると、以前から臨床医学各論は3年生で行っていて、特に問題がなかったので、そのままだったという。  3つめに違和感を覚えたのは、一つの授業内容を実際には2つの科目名で展開する方法が多用されていることであった。例えば専理1年の生理学の一部が臨床理療学の範疇で「臨床生理」という科目名で設定されていた。また専理2年の臨床医学総論とリハビリテーション医学の一部はそれぞれ課題研究という科目名で設定されているため、課題研究の評価は臨床医学総論とリハビリテーション医学の2科目から算定することになっていた。また実習の一部が演習として臨床理療学に振り分けられていた。このような方法がとられたのは、「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師に係る学校養成施設認定規則」が2017(平成29)年に改正されたのに伴って、臨床理療学や総合領域の単位数を充当させるためであったらしい。全国の盲学校でも、授業の連続性・関連性が強くて、複数の教科で同じ評価・評定が付けられることはあるだろうが、本来多用するべき手法ではない。大阪北ではそれがあまりにも多かったため、学期末や年度末の評価が生徒の実態をきちんと反映できていない恐れがあるとも感じた【注2】。また、実習の一部が臨床理療学に配当されることについては、「演習」ととらえれば、問題ないのだろうが、やはり避けるべきだと感じた。そもそもこのような方法を取ることで、教科担当者や学級担任の学期末の出欠時数管理や成績処理が非常に煩雑でミスが生じやすかったり、教科担当者が複数の成績原票を提出しなければならないことを理解していなかったり、前述の課題研究のように臨床医学総論とリハビリテーション医学の担当者で新たに評価・評定・欠課時数を計算し直して成績原票を作成する手間が増えたりという成績処理上の様々な弊害もあった。  4つめは、徒手筋力検査・関節可動域検査・理学的検査法が2年生のマッサージ実技の中で展開されていることであった。これは長年マッサージ実技の中で扱われており、後述の2018(平成30)年の教育課程でもそのままになったらしい。  5つめは、単位数の計算方法の煩雑さである。例えば、専理1年のあん摩実技やはり実技は週5時間あったが、単位数は6単位であった。週5時間で年間授業週数が36週であれば、5×36=180時間となり、30時間1単位で換算すると6単位になるという考え方である。これは大阪北に本科保健理療科があり、この教育課程を認定規則に充当させるために取られた方法がそのまま専攻科にも適用されたためであった。筆者自身は本科保健理療科が存在しない大阪南から異動したため、最初非常に戸惑ったが、本科保健理療科が存在する多くの盲学校・視覚支援学校で同様の方法が取られているかもしれない。その一方で臨床実習は45時間1単位で提出されていたり、医療と社会の一部が15時間単位で計算されていたりと、様々な計算方法で単位数が算出されていた。臨床実習については、2016(平成28)年10月31日の「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュラム等改善検討会報告書」では45時間1単位にすべきとあったが、最終的に当時の『「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師」「理学療法士」「歯科技工士」「柔道整復師」に係る学校の関係手続きの手引き』では臨床実習は30時間1単位でもよいことになっており、同時期に変更申請を行った大阪南の教育課程作成時には30時間1単位で変更承認申請が認められていたため、なぜわざわざ煩雑な方法を取ったのかと疑問に感じていた。  2023(令和5)年度に筆者自身が教務部所属になったことをきっかけに、これらの問題を解決するために大阪北の専攻科の教育課程を変更しようと決意した。次項からはその経緯について説明したい。 (2)2018(平成30)年度適用の教育課程変更について  2016(平成28)年10月31日の「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュラム等改善検討会報告書」を受けて、「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師に係る学校養成施設認定規則の一部を改正する省令」が2017(平成29)年3月31日付けで公布、同年4月1日から施行された。それに伴い、2017(平成29)年に大阪北でも教育課程の変更について議論され、2017(平成29)年12月13日付けで変更承認申請を行い、翌2018(平成30)年3月9日に変更承認、2018(平成30)年度入学生から適用された。その後、「理療情報活用」「保健理療情報活用」がそれぞれ「理療情報」「保健理療情報」に変わるなどの小規模の変更はあったが、大枠では昨年度まではこの2018(平成30)年版の教育課程が適用されており、これは全国の盲学校、視覚支援学校でも同様であると推察する。  筆者自身は、異動前に大阪南で2018(平成30)年版の教育課程の変更に関わったが、そのときに考えたのは、新しい認定規則にいかに適合させるかという観点とともに、これを機会に生徒にとってより学びやすく、教職員にとってより教えやすい教育課程にしようという点も重視していた。しかし、大阪北では現行の授業体系をなるべく変えずに、いかに新しい認定規則に適合させるかという点が優先され、よりよい教育課程を作成するという観点での議論が十分にされなかったようである。そのため、臨床理療学の中に、「生理学」や「演習として展開する実習」が存在したり、マッサージ実技の中で様々な検査法が扱われたり、総合領域の課題研究を作り出すために、リハビリテーション医学や臨床医学総論の一部を充当させたりという、奇妙な教育課程が作られることになったそうである。  このような煩雑な教育課程であるため、教務を経験したことのある理療科教員以外は、大阪北の教育課程をきちんと理解できていないのではないかと感じた。 (3)2024(令和6)年度適用の教育課程変更のプロセス ①教育課程変更に着手するまでの課程  筆者自身が理療科の教務に所属することになった2023(令和5)年度に、今まで教育委員会に提出することが免除されていたシラバスを理療系学科も提出するように校長から指示があった。当時、理療系学科でもすでに校内用にシラバスは作成されていたが、観点別評価には対応されていなかったため、観点別評価に対応したシラバスの変更・修正を理療科の教職員全員に協力してもらうことにした。  このときに筆者は教育課程の変更も視野に入れていたため、シラバスの変更・修正作業に先立って、理療科教職員に「専攻科の教育課程およびシラバス作成における課題」を記した資料を作成した。その中で、まず(2)で述べた現状の教育課程に関する課題のうち、①1つの授業内容が複数の科目で展開されているため、シラバスにもそれを反映する必要があること、②授業時数が週5時間以上ある科目については単位数の計算が授業時数と異なる場合があることなどを強調し、特に①については臨床理療学の一部に組み込まれた「臨床生理」は臨床に関わる内容で、リハビリテーション医学や臨床医学総論の一部で「課題研究」として扱われるものは、「課題研究」にふさわしい内容で、実習の一部で「臨床理療学」に組み込まれているものについては、「実技」ではなく、「演習」として授業展開がなされるようにシラバスを作成するように依頼した。また教育課程の課題として、上記の①②以外に③臨床実習が2年生から始まるのに臨床医学各論が3年生で扱われること、④マッサージ実技の中で各種検査法が扱われることなどの本校の教育課程の問題点も伝えた。このシラバスの変更・修正についてはその後、2回の研修を実施し、その中で各教員が修正した内容を検討していった。このプロセスを通じて、本校の教育課程がシラバスの作成上も問題があることを理療科教員にも実感してもらうようにした。  一方で、5月に行われた近畿盲学校教育研究大会の理療部会で各盲学校・視覚支援学校・視覚障がい者センターに教育課程表の提供を依頼し、収集した各校・各施設の教育課程を分析し、臨床医学各論を2年生から取り扱っていないのは大阪北一校のみであったことなど、大阪北の教育課程の特殊性を本校の理療科教員にも伝え、本校教育課程の問題について改めて情報共有した。  また管理職にも本校の専攻科の教育課程の現状とその課題について説明する機会を作った。2020(令和2)年度から本校に在籍している現校長は元大阪南の理学療法科出身で、大阪南で専攻科部主事の経験もあったため、他の歴代の管理職に比べて理療科の授業内容について理解が深かったが、その校長をもってしても大阪北の科目名(略称)は難解で、科目名を見ただけでは実際に何の授業を行っているかわからないとのことであった。その上で改めて本校理療系学科の教育課程の課題について説明し、教育課程の変更承認申請の必要性を訴えた。当初校長はその作業の繁雑さを踏まえて難色を示していたものの、最終的には変更申請に理解を示してくれた。  以上の過程を経て、本校理療系学科の教育課程変更の必要性を管理職および理療科教員に理解してもらった上で、1学期末には理療科研修会で現状の教育課程の課題をどうすれば解消できるかの大枠を説明し、正式に教育課程変更に着手することになった。 ②教育課程変更案作成から変更承認申請までの課程  2022(令和4)年度から本校の本科保健理療科の募集が停止されたため、2024(令和6)年度入学生から適用される教育課程の検討については、専攻科保健理療科と専攻科理療科のみ行うこととした。  12月までに変更承認申請をするためには、時間が限られていたため、まずは筆者が変更案を作成し、それを叩き台として理療科内で検討することとした。変更案を作成する際のコンセプトは次のとおりである。 ア.単位数の計算は、年間授業週数が実際には35週以上であっても、それを「年間30時間」で考え、講義・演習は30時間1単位か15時間1単位、実習はすべて30時間1単位で計算する方法に統一する。 イ.専門基礎分野の「医療と社会」の一部、専門分野の「地域(保健)理療と(保健)理療経営」、理療科の専門分野の「臨床理療学」や総合領域の一部などは15時間1単位で単位設定して必要単位数を充当する。 ウ.生徒が学びやすい教育課程はどうあるべきかという観点で検討する。 エ.保健理療科と理療科で、なるべく同じ学年に同じ科目が設定されるように配慮する。 オ.原則一つの授業内容の評価は、一つの科目にのみ適応する教育課程にする。 カ.従来の授業内容の中で授業時数が足りない科目、余裕があり時数を減らせる科目を洗い出し、教育課程に反映する。 キ.今回の変更承認申請は、認定規則の変更時のような必須のものではないため、科目内容の変更は理療科教員が授業を担当するときに大きな混乱が生じない程度に留める。  筆者自身は、大阪南で2018(平成30)年の教育課程の変更承認申請に関わっていたため、そのときの経験を生かしながら以上の観点を踏まえて、より生徒が学びやすい教育課程の作成を心がけた。  まず従来からの一番の懸案課題と感じていた臨床医学各論について。近畿ブロックでの調査では多くの学校が2~3年の2学年で行っていたため同様の方法を取ることも考えたが、最終的に2年次にすべて移動させることにした。それに併せて臨床医学総論の内容は、臨床医学各論の内容を復習するような授業展開を期待して、3年生に移動させることにした。  次に東洋医学概論と経絡経穴概論について。近畿地区で本校も含めて8施設が経穴を1年生で設定していた。ただ筆者自身が以前から経絡経穴概論を担当したときに感じていたのは、解剖学と同じ学年で展開されるため、各経穴の解剖について説明するのに苦慮する、あるいは生徒が理解しがたいということであった。一方で近畿地区の2施設が2年生で経絡経穴概論が設定されていた。そこで2年生で経絡経穴概論を行うことの弊害がないかをその2施設に確認したところ、それほど感じられないとの回答があったため、本校も2年生に移動させることにした。それに併せて東洋医学概論は1年生に移動させた。これらの移動により経絡経穴概論では、陰陽五行の考え方はすでに定着し、各経穴の解剖については効率よく学習できると考え、理療科については授業時数を週4時間から3時間に変更させた。  3つめにマッサージ実技から検査法を独立させることにした。  4つめに総合領域にあった(保健)理療情報を廃止し、その代わり基礎分野で情報の授業を設定することにした。2009(平成21)年3月に告示された学習指導要領から総合領域で、(保健)理療情報活用が総合領域で新たに設定されて以来、総合領域で情報に関する授業をしなければならないと考えていたが、近畿の盲学校・視覚支援学校のうち2校で総合領域に(保健)理療情報の授業が設定されていないことがわかった。そこで、2019(平成31)年2月に発刊された『特別支援学校学習指導要領解説 視覚障害者専門教科篇(高等部)』を確認すると、『認定規則の専門分野に対応する保健理療科に属する科目、「(保健)理療情報」及び「課題研究」の中から、各学校の判断によって必要な科目を「総合領域」に位置づけ、教育課程を編成することになる』と書かれていることがわかった【注3】。このことを踏まえて、日本理療科教員連盟の工藤滋会長にもこの内容について問い合わせ、『「各学校がそれぞれの特色を発揮した教育を展開する」ということを目的としていることからも、必ずしも理療情報、保健理療情報を総合領域に含めなければならないということではない』との主旨の回答をいただいたため、情報の内容を総合領域から基礎分野に移動させることとした。  また従来大阪北では医療概論が2年生で設定されていたが、医の倫理など医療人としてあるべき心構えはなるべく早期に伝えるべきと考え、1年生に移動することとした。  これらを核として、まず変更案を2案提示し、それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明した上で、理療科内で意見交換を行い、そこで検討された内容を踏まえて、修正案を作成するということを何度か繰り返して、最終的に教育課程の変更案を取りまとめ、11月中に変更承認申請書類を教育委員会に提出した。  理療科内での意見交換では、経絡経穴概論を2年生で教えることについての適否、2年生のあん摩実技の授業時数増加の可否、3年生の臨床実習のあり方などについて、ある程度理療科内でも活発な議論ができ、理療科教員間で新教育課程案の理解が深まったと感じている。  その後、教育委員会からの質疑に回答することを何度か行った結果、2024(令和6)年2月2日付で文部科学省初等中等教育局特別支援教育課から教育課程の変更承認の通知があった。別紙1と2が実際に承認された教育課程である。 (4)新教育課程の科目内容と今後の課題  ここでは専門基礎分野・専門分野に絞って各学年でどのような授業設定がされているかを説明し、その上でいくつかの科目について当該学年に設定した意図、今回の教育課程でも解消できなかった、あるいは新たに生起した課題を述べる。 ①1年生  解剖学・生理学・医療概論・東洋医学概論・あん摩基礎実習が専保・専理共通で設定されており、それとは別に専理ではり基礎実習が設定されている。今年度から新教育課程が始まったため、そのタイミングで1年生から科目名の略称も変更させた。例えば、生理学は「人生」から「生理」に、東洋医学概論は「基東」から「東医」に変更した。次年度以降も年度進行で略称は変更する予定である。 ア.解剖学・生理学  理想的には解剖学で人体の正常な構造を理解した上で、生理学で人体の正常な機能について学習させたいところだが、同じ1年次に設定されているため、すべての器官系で解剖・生理の順に行うのは困難である。それを解消するためには「人体の構造と機能」としたままで、動物系解剖生理(骨格系・筋系・神経系・感覚器系)とそれ以外の植物系解剖生理に分けるなど、ある程度器官系で分けて分担すべきかもしれないが、理療科教職員の混乱を回避するため、今回はそこまで踏み込まなかった。筆者としては、解剖学・生理学の範疇を残しながらも、神経系・感覚器系・泌尿器系・生殖器系などを構造の理解が難しい器官系を中心として解剖学が生理学に先行できるように教科担当者間で連携を図ってもらえると、生徒が学びやすくなるのではないかと感じている。 イ.医療概論  前述のとおり、医の倫理などを早期に理解させるために1年生で設定した。 ウ.東洋医学概論  1年生に移動させたことで、経絡経穴概論に先行して陰陽五行論などを教えられるメリットがある一方で、経絡経穴概論を2年生に移動させたデメリットが1つある。経脈病証を理解させるためにはその大前提として、経脈の流注を東洋医学概論の中で新たに教える必要ができた。また東洋医学臨床論が3年生にあるため、2年生でいかに東洋医学概論の知識を維持させるかという課題が新たに生じている。これらの課題を解決するためには、個人的には、東洋医学概論と経絡経穴概論を合体させ、2年生の1学期で東洋医学概論の陰陽五行論や気血津液・臓腑の生理などを終わらせた後、2年生の2学期から3年生の1学期にかけて経絡経穴概論を行い、3年生の2学期から東洋医学概論に戻り、病因病機や病証などから再開するのがよいと考えており、今回の教育課程の変更の際にも、その案も提示したが、賛同は得られなかったため、1年生で東洋医学概論、2年生で経絡経穴概論を設定するに留めた。 ②2年生  病理学・臨床医学各論(科目名は臨床医学と臨床診断学)・臨床検査学・経絡経穴概論・あん摩基礎実習・あん摩応用実習・マッサージ基礎実習・指圧基礎実習・臨床実習(あマ指)が専保・専理共通で設定されている。それとは別に専保では課題研究が、専理ではりきゅう基礎実習が設定されている。 ア.臨床医学各論(科目名は臨床医学と臨床診断学)  2年生で臨床医学各論を終わらせることにした。整形外科疾患や神経系疾患で扱う各種検査法については、後述の臨床検査学と連携して授業展開できればと考えている。 イ.臨床検査学  『理療基礎実習』『保健理療基礎実習』中巻【注4】の内容をベースとして、理学的検査法、徒手筋力検査、関節可動域検査、反射検査、知覚検査などを理解させ、整形外科疾患・神経系疾患の鑑別ができるような能力が身につくことを期待して次年度のシラバスを教務で作成した。理想的には、年度末に症例から必要な検査法を選択し、鑑別診断を行えるレベルまで持って行けるようにしたいと考えている。  また後述のとおり2年生の後期から臨床実習が始まる一方で、臨床医学総論を3年生に移動させたため、医療面接(問診)、カルテ管理などをどの科目で行うかを検討する必要がある。良好なコミュニケーションのあり方は基礎分野のコミュニケーション論で、カルテ管理で利用している表計算ソフトの使用方法などは情報の授業で学べるが、主訴・現病歴・既往歴など具体的な問診方法については、臨床検査学で対応する予定である。 ウ.あん摩基礎実習と臨床実習、あん摩応用実習  週2時間の授業設定で前期にあん摩基礎実習、後期から臨床実習を行う。臨床実習は70分で施術することになっているため、前期のあん摩基礎実習で全身施術を70分にまとめられるようにする。あん摩応用実習は3年生の臨床実習で始まる50分施術を想定して、50分間にまとめる力を育成したり、症状別の施術の組み立てを考えさせたりすることを想定している。 エ.指圧基礎実習  従来は1年生で設定していたが、2年生に移動させることにした。大阪北ではあん摩と指圧の基礎実習について独自の術式で教えているが、生徒にとっては両者とも初めて学ぶ術式である。その一方で両者の術式の流れの大半が似ているが、一部異なるため、両者の術式を混同する生徒が多かった。そのため手技療法については1年生ではあん摩のみとし、あん摩の術式が固まった2年生からマッサージと同様に指圧の基礎実習を展開することにした。 ③3年生  衛生公衆衛生学・臨床医学総論(科目名は臨床診察学)リハビリテーション医学・関係法規・(保健)理療理論・東洋医学臨床論・地域(保健)理療と(保健)理療経営・臨床実習・課題研究が設定されている。 ア.衛生公衆衛生学  従来の教育課程では2年生で設定されていた。3年生に移動させたことで最新の統計を教えられるメリットがあると考えている。 イ.リハビリテーション医学  新教育課程からリハビリテーション医学の一部を課題研究に設定するような方法は廃止した。  2年生の臨床医学各論で各種疾患について、臨床検査学で徒手筋力検査・関節可動域検査について既習するため、運動学やより実践的なリハビリテーションを学ぶ時間が確保できると期待している。 ウ.臨床医学総論  リハビリテーション医学と同様に一部を課題研究に設定するような方法は廃止した。  本校を含め近畿の盲学校・視覚支援学校の多くで、2年生で設定されていたが、あえて3年生に移動させることにした。2年生で臨床医学各論をすべて終わらせているため、各種診察所見や検査所見は復習として行うことができ、症候ごとに鑑別診断も行いやすくなると期待している。  理想的には東洋医学臨床論と連携しながら、臨床医学総論の最初から症候ごとに鑑別方法を教えられれば【注5】、同学年で進行する東洋医学臨床論の理解も進むと考える。 エ.臨床実習  多くの学校ではケース・カンファレンスを行う時間が設定されていると思う。本校でも臨床実習の時間を減らしてケース・カンファレンスを含めて臨床実習に関して生徒にフィードバックを行う授業を設定したいという意見も出たが、賛同する教員が少なく、今回の変更では実現には至らなかった。そのため臨床実習の中で生徒にフィードバックできるシステムを構築する必要があると考えている。 (5)小結  以上が、専攻科の教育課程変更申請のプロセスである。  教育課程は、それぞれの学校がどのように生徒を育てていきたいか、どのような生徒を送り出したいかを示す、重要な指標であると筆者は考えている。だからこそ教育課程の変更を検討する際には、「現在の教育課程はどこに問題があるか」「自分がこれからあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師になるために一から勉強するとしたら、どのような教育を受けたいか」という観点に立って、現行の教育課程の課題について各教職員が真剣に考え、活発に議論を重ねた結果、よりよい教育課程が作成されるべきだと考える。今回本校で教育課程を検討する際には、ある程度各教職員が議論に参加してくれたように思う。  その一方で今回の教育課程の変更は、最初に叩き台として変更案を提示した筆者自身の思いが色濃く反映されたものとも言え、今回の変更が適切だったかどうかを検証するにはまだ数年が必要である。  また今回の変更がよりよいものだったと仮定しても、各教職員が教育課程の意図を正しく理解し、その意図に基づいて適切な授業展開をしてくれなければ、その変更は水泡に帰す。上記のとおり、今回の教育課程変更でも解決できなかった問題や新たな課題も生じている。それらを含め、各教科で連携を図れるように今後理療科内で検討し、よりよい仕組みを構築できれば、今回の教育課程変更は適切なものだったと言えよう。 【脚注欄】 1 例えば大阪北では臨床実習でもオイルマッサージが行われており、これは筆者が在籍していた当時の大阪南では行われていなかった。また指圧とマッサージについて大阪南では1科目としてまとめて教えているが、大阪北では指圧とマッサージは別科目として設定されているため、指圧とマッサージで授業配分に偏りが生じる可能性はない。 2 例えば、専理で生理学が得意であれば、大阪北では「人生」と「臨床生理」の両者で高得点が反映されるため、2科目で良好な評価・評定が記載され、平均点も本来の純粋な平均点より上昇する一方で、生理学が不得意であれば、2科目で不良な評価・評定が記載され、平均点が本来よりも低下することになってしまう。 3 『特別支援学校学習指導要領解説 視覚障害者専門教科篇(高等部)』(文部科学省、平成31年2月)で専攻科保健理療科については37ページに、専攻科理療科については145ページにこの記載がある。 4 『理療基礎実習』第2版(中巻)・『保健理療基礎実習』第2版(中巻)(日本ライトハウス) 5 『あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験出題基準 2020年版』で症候について細かく項目が設定されるにもかかわらず、現行の『臨床医学総論』の教科書は、残念ながら各症候についてあまり触れられていない。本紀要が発刊される頃に改訂される予定である、新版の『臨床医学総論』の教科書も症候についてまとめられていない場合、新たに資料を作成する必要がある。 〔参考資料〕理教連近畿ブロックの理療科の教育課程の実態について (一部を抜粋) Ⅰ 基礎分野 1.体育・保健体育関係 (1)30時間1単位で申請している学校・施設:6施設 (2)15時間1単位で申請している学校・施設:5施設  《ある盲学校での工夫》   ・授業内容として体育科には、講義の部分でスポーツのルールや動画視聴などをして、演習で実技的な内容となるようにお願いしている。あわせてAEDの使い方や救命方法についても扱ってもらっている。 2.体育から派生する科目 (1)体育理論と救急対応:15時間1単位で講義・演習  ・体の使い方などの運動に関する内容やスポーツ障害の理解やその対応について座学として学習している。  ・担当は主に体育教員で、教科書は『理療科のための体育実技と救急法』(桜雲会)を使用している。 (2)スポーツ健康学:15時間1単位で講義・演習  ・体育教員が主担となり、理療科の教員と二人で担当。  ・生涯スポーツを念頭にストレッチやトレーニング方法などを教授。 3.その他、特色ある授業設定 (1)心理学・精神分析学:医師の非常勤講師が担当している。 ※以下、専門基礎分野と専門分野は、国家試験対策などの復習がメインの授業は除く。また教科名ではなく実質的にその科目内容が行われている授業を前提とする。 Ⅱ 専門基礎分野 1.解剖学  1・2年の2年間で行っている学校・施設は1施設のみで、それ以外は全て1年生で行われていると思われる(本校も1年生)。 2.生理学  1・2年の2年間で行っている学校・施設は2施設で、それ以外は全て1年生で行われていると思われる(本校も1年生)。 3.衛生・公衆衛生学 (1)1年:4施設 (2)2年:本校を含む5施設 (3)3年:2施設 4.病理学:全て2年生 5.臨床医学総論:全て2年生 6.臨床医学各論 (1)2年:1施設 (2)3年:本校1施設のみ (3)2・3年:それ以外の9施設 7.リハビリテーション医学 (1)2年:本校を含めた3施設 (2)3年:それ以外の8学校・施設 8.医療概論 (1)1年:7施設 (2)2年:本校を含めた3施設 (3)3年:1施設 9.関係法規 (1)1年:2施設 (2)3年:本校を含めた9施設 Ⅲ 専門分野 1.東洋医学概論 (1)1年:2施設 (2)2年:5施設 (3)1・2年:4施設 2.経絡経穴概論 (1)1年:本校を含めた8施設 (2)2年:2施設 (3)1・2年:1施設 3.あん摩マッサージ指圧理論・はり理論・きゅう理論 (1)2年:1施設 (2)2・3年:1施設 (2)3年:本校も含めた9施設 4.東洋医学臨床論 (1)2・3年:2施設 (2)3年:本校を含めた9施設 5.地域理療と理療経営:すべて3年生で設定されている。 6.臨床あはき学(臨床理療学)の15単位の捻出方法 (1)実習の一部を演習として移動:本校 (2)生理学の一部を移動:本校 (4)臨床医学各論の一部または全部を移動:5施設 (5)東洋医学概論の一部を移動:3施設 (6)経絡経穴概論の一部を移動:2施設 (7)ROM、MMT、理学的検査法などの診察に関する授業を設定:4指節 (8)総合理療という科目を設定:1施設  ・2年生で臨床医学各論・臨床医学総論・東洋医学概論・診察学を、3年生で卒業研究の取り組みと国試対策を行っている。 (9)身体観察演習という科目を設定:1施設  ・内容は、生態観察と取穴 (10)臨床応用という科目を設定:1施設  ・臨床実習と連動し、診察練習、カンファレンスなどを演習で行っている。 (11)物理運動療法学という科目を設定:1施設 (12)生体観察という科目を設定:1施設 (13)東洋療法診断学という科目を設定:1施設 (14)臨床あはき学に含まれる授業の一部または全てを15時間1単位で計算:8施設 7.総合領域の(保健)理療情報の扱いについて  ・盲学校のうち、2校は基礎分野で情報の授業が設定されているだけで、理療教科としての「理療情報」を設定していない  ※学習指導要領に縛られない視覚障がい者センターも総合領域で当然設定はない。 3.人体の構造と機能の横断的検討 専門基礎科目班  解剖学と生理学からなる人体の構造と機能には、理療を学習する上での基盤となる要素が多数含まれており、生徒に系統的かつ効率的に教えていく必要がある。また、昨今のあんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験において、これらの分野の問題数は減少傾向にあるものの、他の科目の知識を深める上で必須となる。  しかしながら、解剖学・生理学の学習内容を見てみると、分野によっては、解剖学・生理学両者ともに取りあげているものが複数あり、教員が授業を進める際に工夫する必要がある。また、特に重なりの生じる分野については、解剖学・生理学の担当教員間で綿密に事前の打ち合わせをし、生徒が効率よく学習に取り組めるように支援するのが望ましい。  そこで、解剖学・生理学両者で実際にどのような分野で重なりがあるのかを調査するため、あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験出題基準(2020年版)を参考にし、過去10年間(第23回~第32回)の国家試験問題を整理することにした。その上で、どのような授業を心がけていけばよいか検討する。  ここでは、解剖学と生理学で類似している出題基準ごとに、国家試験過去問題をまとめることにする。 (1)人体の構成(解剖学)、生理学の基礎(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・受精から妊娠について問う問題が2問出題されている。生殖に関する事項は生理学の範囲であるイメージが強いが、受精については解剖学でも扱う必要がある。その他、染色体、体の区分、上皮、膜輸送、白血球、細胞分裂に関するものが1問ずつ出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・核酸について問う問題が3問出題されている。DNA、RNAどちらも選択肢に出ているので、塩基の種類やタンパク質合成についても取り扱う必要がある。 ・解糖について問う問題が2問出題されている。内呼吸の中では特に解糖が重要であることがわかる。 ・体液について問う問題が2問出題されている。 ・その他、物質移動について問う問題が1問出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・細胞小器官の働きを問う問題が3問出題されている。構造については問われていないので、基本的には生理学の方で取り扱えば網羅できる。 (2)循環器系(解剖学)、循環(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・動脈について問う問題と静脈について問う問題がそれぞれ6問ずつ出題されている。動脈では枝について、静脈では注ぐ静脈についてよく問われているので血管の走行をしっかりイメージしておく必要がある。 ・心臓の構造について問う問題が5問出題されている。特殊心筋の位置や冠状動脈の走行について問われることが多いので、特に注意しておきたい。 ・その他、胎児循環について問う問題が3問出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・心臓の機能(心筋、心拍、心電図、心周期など)について問う問題が7問出題されている。解剖学とは出題内容が明確に異なっているので、担当者間でそれぞれ説明しやすい。 ・血圧について問う問題が3問出題されている。意外と出題頻度が低いことがわかる。 ③双方から出題されている分野 ・リンパ系について問う問題が5問出題されている。ただし、解剖学では主にリンパ管の分布や走行について、生理学ではリンパの成分や働きについてというように明確になっているので、それぞれ分けて取り扱うのが望ましいと思われる。 (3)呼吸器系(解剖学)、呼吸(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・気管・気管支について問う問題が5問、鼻腔について問う問題が3問出題されている。その他、声帯靱帯について2問、肺について2問出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・呼吸運動について7問、ガス交換について2問出題されている。 ・その他、肺機能、ガス運搬、反射、異常呼吸について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・該当する問題が見当たらないので、呼吸器系(解剖学)と呼吸(生理学)については、各担当者がそれぞれ取り扱えば問題はない。 (4)消化器系(解剖学)、消化と吸収(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・食道について問う問題が4問、肝臓、胃、結腸、口腔について問う問題がそれぞれ3問ずつ、壁内神経叢、膵臓、腹膜後臓器について問う問題が2問ずつ出題されている。 ・その他、大網、咽頭について問う問題が1問ずつ出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・胃液について問う問題が3問、排便反射、消化酵素、吸収、膵液について問う問題がそれぞれ2問ずつ出題されている。 ・その他、嚥下、大腸の蠕動運動、胆汁、脂肪の消化、摂食、肝臓の働きについて問う問題が1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・該当する問題が見当たらないので、消化器系(解剖学)と消化と吸収(生理学)については、各担当者がそれぞれ取り扱えば問題はない。 (5)泌尿器系(解剖学)、排泄(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・腎臓について問う問題が4問、膀胱について問う問題が1問出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・再吸収と分泌について問う問題が4問、有効ろ過圧、ろ過・糸球体ろ過量、蓄尿と排尿について問う問題がそれぞれ2問ずつ出題されている。 ・その他、腎臓の働き、細胞外液量調節、尿量について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・該当する問題が見当たらないので、泌尿器系(解剖学)と排泄(生理学)については、各担当者がそれぞれ取り扱えば問題はない。 (6)生殖器系(解剖学)、生殖と成長(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・男性生殖器について問う問題が4問出題されている。 ・その他、精管、鼠径管、子宮についてそれぞれ1問ずつ出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・性周期、成長と老化について問う問題がそれぞれ3問ずつ出題されている。 ・その他、卵胞、出産について問う問題が1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・該当する問題が見当たらないので、生殖器系(解剖学)と生殖と成長(生理学)については、各担当者がそれぞれ取り扱えば問題はない。 (7)内分泌系(解剖学)、内分泌(生理学)  ①解剖学として出題されている分野 ・内分泌腺の特徴、副腎、甲状腺、精巣について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・ホルモンの作用について問う問題が6問出題されている。 ・その他、ホルモンの分類、階層支配、副甲状腺、ホルモンの効果器、授乳、内分泌腺とホルモンについて問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・下垂体前葉・後葉から分泌されるホルモンについて問う問題が解剖学から1問、生理学から3問出題されている。これについては、内分泌の働きを問うものなので、基本的には生理学の方で扱うのが望ましい。ただし、下垂体前葉を腺性(または腺)下垂体、下垂体後葉を神経性(または神経)下垂体と表現して出題される可能性があるので、それも含めて説明する必要がある。 (8)神経系(解剖学)、神経(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・末梢神経について問う問題が5問、脊髄について問う問題が3問、大脳、伝導路、脳脊髄膜、下垂体、腕神経叢について問う問題がそれぞれ2問ずつ出題されている。伝導路は生理学でも学習するが、上行路については解剖学から出題があるので、解剖学で扱うのが望ましい。 ・その他、交連線維、脳幹、脳室、脳全体、腰神経叢、デルマトーム、自律神経、神経と筋について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されており、多種多様な分野にわたる。 ②生理学として出題されている分野 ・中枢について問う問題が7問、自律神経について問う問題が4問、興奮の伝導について問う問題が2問出題されている。中枢については、シンプルな問いが多く、確実に覚えておけば答えられるものになっている。 ・その他、神経組織、シナプス、伝達物質、脳波、自律神経反射について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・脳神経について問う問題が解剖学から9問、生理学から1問、計10問出題されているが、解剖学からは主に構造に関すること、生理学からは作用に関することが問われている。脳を通過する部位、支配筋、副交感神経を含むものについては解剖学で扱い、作用については生理学で扱うのが望ましい。 (9)感覚器系(解剖学)、感覚(生理学) ①解剖学として出題されている分野 ・眼球、皮膚について問う問題が4問ずつ、痛覚の伝導路について問う問題が2問出題されている。 ・その他、嗅上皮、味覚について問う問題が1問ずつ出題されている。 ②生理学として出題されている分野 ・視覚について問う問題が3問出題されている。 ・その他、順応、触圧覚、臓器感覚、痛覚、発痛物質について問う問題がそれぞれ1問ずつ出題されている。 ③双方から出題されている分野 ・内耳について問う問題が4問、感覚の中継核について問う問題が2問出題されている。内耳については、構造や感覚受容器は解剖で、体の動きに対する細かな作用については生理学で取り扱うのが望ましい。感覚の中継核は構造的なものなので解剖学で取り扱うのが望ましい。 (10)まとめ  今回の調査によって、複数の分野において、解剖学・生理学の出題は明確に分けられていることが解った。また、解剖学・生理学双方から出題があったとしても、それぞれの担当者で「構造」と「働き」に分けて担当すれば整理することができる。ただし、「細胞小器官」、「下垂体前葉・後葉」については構造を問う問題が出題されていないので、基本的に生理学担当者で取り扱う方が望ましいと思われる。 ①解剖学と生理学の双方から出題されている分野が含まれていないため、解剖学、生理学の内容を各担当者がそのまま取り扱うもの  ア.呼吸器系(解剖学)と呼吸(生理学)  イ.消化器系(解剖学)と消化と吸収(生理学)  ウ.泌尿器系(解剖学)と排泄(生理学)  エ.生殖器系(解剖学)と生殖と成長(生理学) ②解剖学と生理学の双方から出題があり、構造は解剖学担当者で、働きは生理学担当者で取り扱うのが望ましいもの  ア.「循環器系(解剖学)、循環(生理学)」のリンパ系について問う問題  イ.「神経系(解剖学)、神経(生理学)」の脳神経について問う問題  ウ.「感覚器系(解剖学)、感覚(生理学)」の内耳について問う問題 ③解剖学と生理学の双方から出題があり、解剖学の担当者で取り扱うのが望ましいもの  該当無し ④解剖学と生理学の双方から出題があり、生理学の担当者で取り扱うのが望ましいもの ア.「人体の構成(解剖学)、生理学の基礎(生理学)」の細胞小器官の働きについて問う問題  イ.「内分泌系(解剖学)、内分泌(生理学)」の下垂体前葉・後葉について問う問題 4.東洋医学概論と経絡経穴概論の設定学年の変更に関わる   経緯と課題 専門科目班 (1)専門科目の設定学年の現状  専門科目の座学において、本校ではこれまで1年で経絡経穴概論、2年で東洋医学概論、3年で東洋医学臨床論や、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう理論を設定してきた。2017(平成29)年度までは保健理療科については2年の東洋医学概論の中で経絡経穴を扱っていたが、認定規則改正に伴う教育課程改正に合わせ2018(平成30)年度より1年に新たに経絡経穴概論を取り入れた。この教育課程改正時の入学者が受験する2020(令和2)年度実施の第29回国家試験より、専門基礎分野と専門分野の問題数の割合がそれまでの6対4から5対5となり、専門分野に対する国家試験対策の強化が求められるようになった。  2024(令和6)年度より、1年に東洋医学概論を、2年に経絡経穴概論を設定した新教育課程に移行した。その経緯と課題について触れる。 (2)東洋医学概論、経絡経穴概論の内容について ①東洋医学概論  東洋医学は、陰陽五行論という自然界や万物をみるという思想に基づきそれを人体に応用したものである。また人の体は気血という現代医学とは異なる特有の物が流れ、また現代の内臓とは機能をことにする臓腑で持って構成されているという考えに基づくものである。つまり、生命力やそれを成り立たせる栄養状態は気血によってなされており、その調整は東洋医学特有の臓腑の働きでなりたつというものである。古典的な鍼灸治療や、ちまたでもよく耳にする漢方薬はこの東洋医学のメカニズムによるものである。東洋医学の視点から鍼灸治療を行うには陰陽・五行論、気血、臓腑などの基礎をまず学習し、病証、診断を学習することが必須となる。  東洋医学概論の主な学習項目は、陰陽・五行論、気血津液、臓腑の生理機能、病因論、病証論、診断と証の立て方、治療法である。現代医学の解剖学や生理学とは構造や機能を異にし考え方に相違があることで、1年で解剖・生理と同時に行うのは生徒の知識習得に困難性があるということで、多くの学校では東洋医学は2年で設定されている。2年で設定されていることにより、3年での東洋医学臨床論に連続して知識を深めることも容易である。 ②経絡経穴概論  経絡経穴概論では、全身十四経脈の名称、その経脈上の361穴の名称、部位、取り方、現代医学から見た解剖的意義、要穴などの東洋医学的意義などを基本に学習する。様々なことを暗記を含め理解しなければならず、また、はり実技で実際に経穴を定めて刺鍼練習をすることからも、年度当初よりほぼ1年を通して学習することに重きを置いてきた。特に経脈や経穴の名称は東洋医学特有のものであることから、現代医学で幾らかは馴染みのある言葉とは全く異なる言葉を暗記するということもあり、1年当初から徐々に慣れて行き、積み上げていくことに大きな意義があると考えてきた。  経絡経穴は、その成り立ちは東洋医学の思想に基づくものである。経脈は気血が流れる通路であり、その通路が全身の体表面にあり、かつ何らかの刺激に対し反応するところが経穴である。経脈は臓腑につながっており、臓腑の機能の失調は経脈に反応として現れ、経脈上の経穴を刺激することで臓腑の働きを調整することができる。経穴は体表に存在するものであることから、その部位を表現するに当たり、骨・筋・神経・血管を指標にし、実際体のどこにあるか定めるには骨の形状・筋の走行などの知識は不可欠である。 (3)1年で東洋医学概論、2年で経絡経穴概論を設定した経緯並びに進度においての工夫 ①東洋医学概論  2024(令和6)年度より、1年で東洋医学概論を設定した教育課程が開始された。現代医学とは概念を異にするものを入学当初から同時に学習することは、生徒にとって難しさがある反面、今日のあん摩・はり・きゅう治療の基礎となった医学の考え方を当初から理解を深めることは大きな意義がある。まず基礎として陰陽五行、気血津液、臓腑の生理機能などを学ところから始まる。次いで気血津液の病理変化や臓腑の病証について深める訳であるが、病証は臓腑だけでなく経脈から捕らえる見方もあるため、経脈の基本構成については取り上げなければならない。これまでは1年で経脈の学習を終えていたので、経脈や経穴については改めて取り上げる必要はなく、病証も比較的とらえやすい部分はあった。しかし、経脈の病証を理解するために1年の東洋医学概論の中で経脈についてはその基礎を学習しておく必要がある。そこで、臓腑の生理機能を終えたところで、以下の部分により経脈と経穴の概要を取り入れた。  保健理療科:盲学校理療教科用図書編纂委員会編「基礎保健理療Ⅰ(東洋医学一般)」「第8章 経絡の概要」「第10章 所属経脈を持つ経穴」の中の各経脈の流注  理療科:日本理療科教員連盟教科書委員会編「基礎理療学Ⅰ(東洋医学概論)」「第2編 東洋医学の生理観」の「第4章 経絡と経穴」、「基礎理療学Ⅱ(経絡経穴概論)」の「1章 経絡・経穴の基礎」「第2章 経脈・経穴」の中の各経脈の流注  また、理療科において特に鍼灸治療法の部分では難経六十九難に基づく治療を始め五行穴や五要穴などが関わる部分では対応する経穴の部位や取り方を熟知しているのが前提となるため、東洋医学の領域で学習する経穴を用いての治療については2年の後半で経絡経穴概論の中で取り上げる必要が出る。 ②経絡経穴概論  経脈や経穴は、その成り立ちは東洋医学の思想に基づくものであることから、経絡経穴概論を2年で設定することで、既習の気血や臓腑の概要、陰陽五行の知識を基に、経穴をただ暗記するだけでなく、その働きや治療効果を具体的に捕らえることが容易になる。また1年で設定されていたことによって、骨や筋を解剖学で学習している1学期の間は、それらの知識が不十分なまま経穴の取り方を学習することになり、その内容を補足しながらの授業となり多くの時間を費やすという不利益が生じていたが、既習の解剖学の知識を基に、経穴の部位や取り方を迅速に学習することができると考えた。実際には2025(令和7)年度からの実施となる。なお、理療科の経絡経穴概論は1単位減の3単位としたが、解剖学を修得している反面、東洋医学で学習する治療法を含むことから、部位や取り方のところの進度はこれまでよりも迅速に行う必要がある。  なお、経脈流注の学習、1年のはり実技での経穴刺鍼のための教材として、経絡経穴概論の教科書は理療科に限り1年で選定している。 (4)変更に伴う課題  ①国家試験の臨床論において、東洋医学の病証からみた診断・治療の問題が、あん摩マッサージ指圧師の問題でも増加しており、3年の臨床論は東洋医学概論の知識を基礎に理解に結びつける必要があることから、今後は1年で習得した東洋医学の知識を2年時に継続して定着させるための方法を考える必要がある。  ②経絡経穴概論を2年から始めることになったことで、これまで3年に渡って繰り返しの学習により積み上げることができた経穴の知識を、2年間の中で覚え・応用するための迅速な学習の工夫が必要である。 5.基礎実習から臨床実習へのつながりをめざす取り組み 実習班  本校の実習の授業は、第1学年で基本的手技による全身の施術ができること、第2学年で症状に応じた応用的施術ができること、第3学年で校外の患者に対する実践的施術ができることを目標とする構成である。  あん摩、はり、きゅうの施術を受けに訪れる患者は、主訴とする症状が同じであってもその原因、痛みの部位、痛みの種類は様々であり、それらに応じた効率の良い施術プランを立てる必要がある。よって第3学年での「実践的施術」をめざすためには、第2学年の授業で患者の病態把握ができるようになることが重要となる。  そこで今回はあん摩、はり、きゅうの臨床現場で遭遇する機会の多い「腰痛」について、西洋医学的観点に基づく病態把握に向けた診察チャートの作成に取り組んでみた。 (1)腰痛の主な原因  腰痛を生じる主な原因を障害部位別にまとめると以下のようなものがあげられる。  ①筋・筋膜の障害:筋・筋膜性腰痛  ②脊椎の障害:変形性脊椎症、脊椎分離・すべり症、脊柱管狭窄症、椎間関節障害  ③椎間板の障害:椎間板ヘルニア  ④仙腸関節の障害  ⑤股関節の障害:変形性股関節症  ⑥内臓の障害:泌尿器・男性生殖器・婦人科の疾患 (2)腰痛の診察項目  腰痛患者の診察ポイントを整理すると以下のようにまとめられる。  ①脊柱:彎曲(側彎、前彎、後彎)、階段変形、圧痛・叩打痛  ②痛み:運動時痛(前屈時、後屈時、側屈時)、安静時痛・夜間痛、 増悪因子・軽減因子  ③下肢痛:坐骨神経の走行に沿う痛み、股関節周辺の痛み、間欠性跛行  ④股関節:形態(外旋、内旋)  ⑤理学的検査:SLRテスト、ニュートンテスト、パトリックテスト、母指背屈力テスト、母指底屈力テスト  ⑥知覚:過敏、低下、異常感覚  ⑦腱反射:亢進、減弱 (3)腰痛の診察チャート 6.おわりに  今回、理療科教員10名を3班に分け、各班でテーマを設定し検討し、取組内容を文書化することができた。今後、理療科内で検討結果を情報共有し、より効率的な授業の実践に向けて活用していきたい。 綴り、語ることで継承される生活教育 寄宿舎  原田 奈穂美 1.はじめに  本校寄宿舎は、令和6年10月現在、9名の舎生(中学部4名、高等部普通科3名、保健理療科2名)が在籍しており、12名の指導員で運営している。教育課程のない寄宿舎においては、学部、保護者との深い連携のもと、舎生の要求を探りながら、より豊かで主体的な生活を目指した教育目標を設定している。舎生の要求を探るために必要になるのが、日々の生活記録である。寄宿舎の実践は、生活の様子を記録し、次の勤務者へ引き継ぎつつ議論を重ねることで舎生の思いを探り、そしてまた舎生と向き合うという繰り返しで成り立っている。舎生たちが異年齢集団での生活の中でお互いの価値観をすり合わせながら育ち合う、という事実は、この実践の中で検証され「生活教育」として根付いている。  本稿では、新型コロナ感染症が5類に移行され、生活様式が戻りつつある令和5、6年度の2年間に行った舎内研修を報告する。 2.目標設定  令和2年に起こった新型コロナ感染症による生活様式の変化は、前述した「生活教育」の根幹を揺るがすような出来事であった。感染拡大防止のために行った、舎室の個室化、完全入れ替え制の入浴、黙食と、生活そのものをマニュアル化していくような対策は、寄宿舎の醍醐味ともいえる集団生活を解体するものでもあった。令和5年に新型コロナ感染症が5類に移行されたことで寄宿舎生活も元の状態に戻りつつあるのだが、戻ることもまた変化である。生活様式が変化し続ける今こそ生活教育の在り方を考え直す機会と捉え、「視覚障がい児・者の生活教育を継承し、舎生のねがいに寄り添った支援の充実を図る」を研修目標とした。  寄宿舎指導員の専門性は、目の前で起こった「事実」を正確に引き継ぐことと、どのようなねがいをもって対応し、舎生の心がどう動いたのかという「実践」を綴り、語ることで向上すると考える。日々の引継ぎでは、 主語の曖昧さや聞く職員の思いこみがあると、事実が伝わらないという不具合が生じてしまう。また、舎生の心が動いた瞬間は、目の前で起こって気付く場合と、事実を重ね議論した結果「あの時だった」と気付く場合とがあり、その瞬間を捉えるためにもより正確な事実の記録が必要になる。誰が言ったのか、誰のねがいなのか、期待なのか、推測なのか等を正確に把握し伝える力をつけるため、①実践の主体者である指導員の専門性、 ②生活の主体者である舎生のねがい、この二つに焦点をあて、「綴り、語る」研修に取り組んだ。 3.舎内研修 (1)総括研修  本校寄宿舎では、小・中学部パート、普通科パート、理療科パートというパート担当制をとっている。毎学期末に行っている総括研修は、主に寄宿舎での様子を振り返り、次の指導方針を固めていく研修である。週末に帰宅する舎生たちには、学校、家庭、寄宿舎、福祉施設など様々な場所での生活がある。寄宿舎以外での生活の様子も共有できるため、個人の変化や成長の要因が必ずしも寄宿舎生活にあるというわけではなく、それぞれが相互に作用し合っているということが明確になる。さらに議論を深めることで、舎生のなりたい姿を探り、そこから舎生へのねがいが形作られていく。同時に、他の場所ではない、寄宿舎だからこそできる取り組みや指導を見極めていくこの研修は、専門性を高める研修として位置づいている。  令和5年度には、ここで使用する様式の変更を行った。今回の改定の際に特に考慮した点は以下の3つである。   ①「できる」「できない」をチェックするためのものではなく、事実を共有する目的で使用する。 ②項目については、個人に合わせて変更する前提で記入する。 ③事実、ねがい、それらの主語をはっきり区別する。  目標については、職員の「ねらい」ではなく、「こうなってほしい」という近い将来の舎生の姿を想像した「ねがい」を表現した目標になるよう、討議の際に促している。また、寄宿舎では特に朝夕に服薬している舎生が多いため、眼疾、基礎疾患などの健康状態に加え、服薬状況を把握し共有することにも活用している。   (2)生活記録の振り返り  研修内容については、年度毎に検討しており、触察、歩行、性教育などに取り組んできた。令和6年度については、前年度末に入舎した舎生が多いことから、一人ひとりの実態の共有を徹底することで方針を固めた。そのための研修として企画したのが、生活記録の振り返りである。      生活記録は、舎生一人ひとりのようすを日々書き留めているものである。書きながら舎生の生活を思い返し、同時に自分がどういう態度で接したかを振り返ることもできるので、舎生の心が動いた瞬間を見極める大事な作業になっている。ところが、日常生活はとても小さな出来事の連続になるため、「今日もいつも通りの生活」と捉えてしまいがちである。その点において寄宿舎では、指導員が交代勤務で舎生に関わるため、それぞれの視点で切り取った生活の様子を寄せ集めることで、新たな事実を見出すことができている。毎週月曜日の13:30~14:00、舎生が帰舎する前に生活記録を読み合わせることで、その週にどう対応していくか、それぞれの心構えを作る機会にしている。 (3)実践報告会    令和2年の緊急事態宣言による休校に伴い、寄宿舎も休舎となった。休校明けには感染対策が優先された生活がスタートした。指導員も何ができて何ができないのか手探り状態の中、ソーシャルディスタンスを保ちながらの話し合い活動は継続させていたが、舎生からの要求が出にくい状況が続いた。「楽しいことも今は我慢」という思いが寄宿舎でも蔓延していた。新型コロナ感染症が5類に移行してからも、すぐに元の生活に戻るということは難しかった。舎生の要求が出にくいということは、指導員が舎生へのねがいも持ちにくいという事である。その状況から脱却するための研修として、指導員全員が実践報告を行うという研修を企画した。指導員が寄宿舎での仕事に改めて向き合い、それぞれが大事にしている思いを出し合うことで、舎生へ向かう気持ちを高め合う機会にできないかと考えた。実践報告の経験がない、あるいは書くこと、語ることが苦手な指導員もいるため、以下の3つのルールを設定した。 ルール①レポートの形式は自由。 ルール②これまでの実践での気付き、疑問、教えてほしいことや、   自分が大事にしていることなどを報告する。 ルール③自分と違う考えだとしても、修正させるような発言は控える。 ※報告タイトル一覧 【令和5年度】 「令和5年度 実践報告」宮園直人 「寄宿舎に勤めて36年 再任用2年目 今新たに思う事」横山公美 「『ゆたかな生活』って何だろう」朝妻由美 「太鼓の取り組みを振り返って」白木幸治 「生活教育を守り・発展させるために ~学校運営に携わる学校教職員の一員としての意識~」平野由佳 「『敬語』と『タメ口』どちらの言葉遣いをするべき?! 今更ながらではありますが少し考えてみませんか?」吉中敏幸 【令和6年度】 「前任校での思い出」井上武 「寄宿舎のトイレについて思うこと」太田正伸 「心に残っている10の言葉たち」原田奈穂美 「“今の時代”における寄宿舎の必要性について」細川純一 「子どもとの関わり方遍歴」髙橋昇 「舎生との関わりを持つ事の難しさ」東口洋子 「子ども達との関わりで感じたこと」廣岡恵 「実践報告」福井陽介 4.成果と課題  2年間にわたり、舎生や自分自身と向き合い、綴り、語る、という研修を行った。中でも、全員が実践報告を行うという研修は初めての試みだったが、どの報告に対しても「もっと聞きたい、知りたい」という意見が出たことは印象的だった。研修を振り返ってみたところ「誰にも否定されることなく、自分の思いを出せる場を設定する」という取り組みは、実はこれまでに寄宿舎で実践してきた、舎生の集団作りの土台そのものであった。舎生にとっては生活の場所、職員にとっては働く場所である寄宿舎を、心理的安全性の高い場所にすることが、舎生の要求が出やすい環境を整えるということであり、その先にある豊かな生活につながるのではないかと考える。この2年間は「指導員の専門性」と「舎生のねがい」に焦点をあてた研修だったが、今後は「集団作り」という視点を加えて、さらに専門性を高めていきたい。 5.おわりに  寄宿舎は、一緒に生活する友だちや先輩に刺激され「もっと上手にできるようになりたい」という向上心が芽生えたり、大好きな指導員に褒められて「できた!」と自信をつけたり、友だちに指摘されて自分自身を見つめ直し、「変わりたい」と決意したりと、舎生の要求や願いにあふれている。生活教育とは、その様な舎生の姿を書いて残し、語って伝えていくことで「在る」もの、そして継承されていくものではないだろうか。今回は、研修として綴り語ることに取り組んだ。舎生の姿を「綴りたい、語りたい」と思えるような実践を重ね、発信していくことで、家庭や学部との連携をより深め、舎生のさらなる成長につなげていきたい。 編集後記  この度、令和5年度ならびに令和6年度の2年間の研修のまとめとして「研究紀要第53集」を発行する運びとなりました。全校研究目標を「視覚障がい教育の専門性の共有をめざして~次のステップを見据えた学部間の連携~」と設定し、各学部において、視覚支援教育の専門性の共有、卒業後を見据えた指導の工夫のための研修に取り組んできました。  コロナ禍が終焉を迎えたことに伴い、制限されていた教育活動が再開されてきている一方で、幼児・児童・生徒の減少に伴う集団保障の難しさ、教員の減少、インクルーシブ教育の推進による外部支援の増加など、様々な課題を抱えている現状にあります。本紀要では、そんな中で取り組まれている、視覚障がい教育の専門性を継承していくための工夫や、卒業後を見据えた授業の取り組み、集団を保障するための高等部と中学部の合同授業、卒業までに求められる知識・技能が増加傾向にある理療科で行われた授業の具体的な工夫などがまとめられています。  今後も、学びと発達の保障の場である視覚支援学校として、そして同時に、視覚障がい教育、支援の拠点としての役割を果たしていきたいと考えております。  最後に、この研究紀要の作成にあたり、ご多忙の中ご協力、ご尽力いただいたすべての皆様に心よりお礼申し上げます。 令和8年1月 研究部 2